研究課題/領域番号 |
17K04329
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研究機関 | 立正大学 |
研究代表者 |
上瀬 由美子 立正大学, 心理学部, 教授 (20256473)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 社会的包摂 / 偏見低減 / 地域連携 / 接触理論 |
研究実績の概要 |
本年度(中間年度)は地域と刑務所の連携が進むカナダの連邦刑務所を視察し、近隣住民および職員に面接調査を行うことで効果的な可視化のあり方を検討した。具体的には、カナダ矯正局管轄の5施設(刑務所および中間処遇施設)とオンタリオ州刑務所1施設を見学し,カナダにおける刑務所と地域との連携および文化的多様性に対する取り組みの現状について関係者の聞き取り調査を行った。さらに、カナダに住む一般市民にも聞き取り調査を行った。その結果、カナダ刑務所では市民諮問委員会やボランティアといった形で地域住民が受刑者の教育や処遇プロセスに積極的に関わっており、施設の側も地域との連携を不可欠なものとして位置づけていることが明らかとなった。また、施設の活動に関わった住民が、施設に対する正確な情報を地域に伝達する役割を担っていることや、そのことが施設への信頼向上に貢献していることが推察された。 本研究は、ステレオタイプ・偏見低減研究において効果的接触の成立条件とされる「社会的・制度的支持」の 一形態として「可視化した社会システム」を位置づけ、より効果的な接触を生起させるための可視化のあり方について検討することを目的としている。カナダ連邦刑務所においては矯正システムの可視化を、市民ボランティアの参加という形で推進しており、この結果、多数の地域住民に施設との接触が生じることにつながっていると論考された。また接触の機会を得た住民は、他の住民に正確な地域を提供する立場であることを自覚していた。このようにカナダでは一般の地域住民と刑務所の接触は必ずしも直接的なものとは位置付けられておらず、地域代表者から一般の住民に情報伝達されることでステレオタイプが変容する2段階のプロセスが想定されている。本年度は、可視化に関する複数のフェーズを論考できたことで、より発展的なモデル提出につながったものと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は播磨社会復帰促進センター近隣住民を対象に意識調査(研究1) を行い、従前の他施設との調査結果も含めて検討した結果、システムの可視化が接触を高め、偏見低減を促進させるプロセスが確認された。さらに施設との接触のあり方や施設に対する認知度・認知内容がPFI刑務所開設経緯によって異なること、導入される可視化のあり方によって社会的包摂の効果には違いがみられることも示された。 中間年度は、地域と刑務所の連携が進むカナダの連邦刑務所に焦点をあて、地域住民による施設への接触の形、効果的な可視化のあり方を検討した。その結果、カナダ連邦刑務所では、施設と地域住民の直接的な接触が日本よりも多様かつ接触的な形で試みられていることが確認され、接触のシステム構築の際には施設に直接接触した住民から一般の市民への情報提供も念頭におかれていることが明らかとなった。 本研究は、ステレオタイプ・偏見低減研究において効果的接触の成立条件とされる「社会的・制度的支持」の 一形態として「可視化した社会システム」を位置づけ、より効果的な接触を生起させるための可視化のあり方を検討することを目的としている。ここまで研究1においては従前のモデルを確認するとともに、可視化のあり方による効果の違いを示すことができた。研究2においては、可視化に複数のフェーズを含めてモデルを発展させることができた。このことから本研究は概ね順調に進展していると考える。ただし研究2の論考については現時点では事例に基づく質的な考察にとどまり、聞き取り対象者の発言内容の詳細な分析および数量データの分析には至っていない。このため、研究2の知見について得られたデータ再分析するとともに、日本で行なった質問紙調査結果を再検討する必要が残されている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、ステレオタイプ・偏見低減研究において効果的接触の成立条件とされる「社会的・制度的支持」の 一形態として「可視化した社会システム」を位置づけ、より効果的な接触を生起させるための可視化のあり方を検討することを目的としている。この目的に沿い、初年度は日本の「官民協働(PFI)刑務所」の開設を事例として取り上げ、中間年度はカナダ連邦刑務所と地域の連携の事例を取り上げ、刑務所や出所者に対する偏見低減のために、矯正システムをどのように可視化することが有効なのかを考えた。 最終年度は、まず研究2の聞き取り対象者の発言内容の詳細な分析を行うとともに、得られた知見をふまえて日本での調査結果を再分析する。その上でこれまでの研究成果をふまえた最終報告書を作成する。具体的には、研究1の結果および他のPFI刑務所開設地域調査の分析結果をもとに、施設および刑務所出所者に対する地域住民の態度の現状について報告するとともに、全地域を合わせた分析を行い、可視化した社会システムがどのような形で接触を促して社会的包摂を促進するのか、その過程についてのモデルを提出することを目指す。研究成果について関連の学会で報告・論文化する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
中間年度に行ったカナダでの聞き取り調査について、発言についての分析が残った。一般市民に行った聞き取りについては文字起こしをした上で内容を検討する必要があるため、最終年度に予算を使用することとなった。
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