本研究では、ステレオタイプ・偏見低減研究において効果的接触の成立条件とされる「社会的・制度的支持」の一形態として、「可視化した社会システム」を位置づけ、被スティグマ化された人々の社会的包摂をめざす社会的アプローチとしての有効性を検証することを目指した。具体的事例として日本の「官民協働刑務所」の開設を取り上げ、システム導入が地域住民の刑務所や出所者に対する偏見をどのように変容させたのか、既存の矯正施設との比較も含めアクション・リサーチを行った。 本年度は2017年から3年間の研究期間で得られた官民協働刑務所近隣地域住民調査のデータと、申請者が過去に行った官民協働刑務所近隣地域住民調査のデータを統合し、矯正施設の可視化が近隣住民の刑務所および出所者に対する態度を変容させるプロセスについて全体的に分析を行い論文執筆を行った。並行して2018年度のカナダでの聞き取り調査をふまえ、出所者の社会的包摂に力を入れる各国の事例収集に力を入れた。この中で刑務所と地域の連携は、出所者の社会復帰を支える際に必要なものとして各国で取り組みが進められている一方で、地域連携が近隣住民の刑務所や出所者に対する態度にどのようなプロセスを経てどのように変化を与えるのかについては十分な検討がなされていないことも明らかになった。 これらをふまえ、日本の官民協働刑務所の地域連携について紹介して各国の事情と比較するとともに、この新しい社会システムの導入が刑務所への地域住民の接触を促し、この接触が出所者に対する偏見を低減させたことを住民調査分析結果に基づいて示す論文を海外誌に投稿した。
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