研究課題/領域番号 |
17K04334
|
研究機関 | 甲南女子大学 |
研究代表者 |
大友 章司 甲南女子大学, 人間科学部, 准教授 (80455815)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 習慣 / 不健康な食品消費行動 / 行動変容 / 行動文脈 / 生活環境 |
研究実績の概要 |
本研究は、人々の行動変容を妨げる習慣を形成している行動文脈にアプローチする認知的介入理論の提唱を目的としている。2018年度は、生活環境が不健康な食品消費の行動習慣に及ぼす影響力を計量的なモデリングにより数値化するフィールド研究を実施した。具体的には、前年度までの研究成果を発展させ、行動習慣に関わる生活環境の心理的手掛かりの共通カテゴリを用いて、生活環境→習慣→行動のプロセスから推定する因果モデルの検討を行った。フィールド研究では、不健康な食品消費行動の因果プロセスを対象にし、人口統計学的変数による交絡を統制するため、性別×年代(20代~50代以上)ごとに参加者を抽出した2時点の縦断的調査のデザインで実施された。とくに、食に関する生活環境の要因の測定では、ファストフードの利用環境、食品のストックといった状況要因に加え、食品栄養学における味覚行動や自制変数が用いられた。また、習慣プロセスモデルにおける習慣的要因、動機的要因と、測定時点毎の日本食品標準成分表に基づく不健康なお菓子の消費行動頻度の行動データによりモデル分析が行われた。 その主な結果、性別、年齢やBMIといった変数のお菓子の消費行動への影響は見られなかった。一方、事前の消費行動、食品のストック、ファストフードの利用頻度が消費行動を直接規定していた。さらに、習慣×味覚行動、事前の消費行動×自制変数、ファストフードの利用頻度×自制変数の交互作用が確認された。したがって、不健康なお菓子の消費行動は、環境要因と習慣要因に強く規定されるだけなく、食生活に関する文脈に大きく左右されて生じることが示唆された。 以上の研究成果により、さまざまな文脈的要因の中でも不健康なお菓子の消費行動に影響を及ぼす環境要因を数理的に特定化することができた。本研究成果の一部は、2019年のヨーロッパ健康心理学会や日本心理学会において発表予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度のフィールド研究では、不健康な食品消費の習慣に影響を及ぼす生活環境の文脈的要因の影響を数値化するアプローチが実践された。これまでと同様に、消費行動頻度(FFQg)のカロリーベースによる客観的な行動指標に加え、食品栄養学や疫学研究で用いられている味覚行動や自制変数といった食育環境要因の測定を行った。これらは、従来の心理学の概念としては研究がされてこなかったため、現実の食生活に即した生態的妥当性の高いデータを得ることができた。実際に、心理変数である不健康な習慣は味覚行動が低いほどその後の消費行動への影響力が強くなり、事前の消費行動やファストフードの利用頻度は自制変数が低いほどその後の消費行動への影響が強くなるという調整効果が確認された。人々がおかれている食育環境によっても、不健康な食品の消費行動が左右されることが明らかになった点は、社会的な環境としての文脈的要因の影響を検討するうで重要な知見である。 また、本研究ではベイズ推定によるモデル構築が行われた。そのため、影響力を視覚化するインフォグラフィックスを制作するうえで、より精度の高いアプローチを実現することができた。前年度と同様に、不健康な食品の消費行動に対して、性別やBMIといったデモグラフィック変数からの影響が確認されなかった。欧米の先行研究と異なる結果が一貫してみられた点は、日本における独自の特性である可能性が考えられる。 これまでの研究成果の一部は、2018年度のヨーロッパ健康心理学会や日本心理学会で発表を行った。また、本研究の内的要因と環境要因の関連の応用研究は、査読誌に掲載された。以上のフィールド研究より、デモグラフィック要因の影響や習慣の影響が文脈的要因により左右されるプロセスについて独自の研究成果を発表した点や、次年度の研究に発展性の高い知見が得られた点を鑑みて、「おおむね順調に進展している」と評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度の生活環境が不健康な食品の消費行動に及ぼす影響を数値化するモデリング研究においても、前年度と同様に、年齢やBMIといったデモグラフィック要因の行動への影響が見られなかった。欧米の先行研究では関連が指摘されているため、文脈的要因との調整効果も加味しながら、より妥当性の高いデータを示すことで、日本の独自の特性である可能性を検証していく必要がある。また、本研究では、従来の心理学の研究では用いられなかった、食育環境の側面である味覚行動や自制変数を用いることで、習慣と味覚行動の交互作用など、文脈的要因の新たな影響プロセスを明らかにすることができた。食育環境の影響を明らかにした点は、実際の食習慣の変容の課題を示唆する重要な成果である。このような食習慣の課題を検討する上で妥当性の高い変数を取り入れることが求められる。そのため、次年度においても、食品栄養学や疫学研究で用いられてきた測定手法を文脈的要因の変数として取り入れていく。 また、今後の計画では、計量的モデリングによる生活環境の影響力の数値化の研究成果に基づき、その影響力を視覚化するインフォグラフィックスを制作する。インフォグラフィックスの制作では、本年度のようにベイズ推定による精度の高いエビデンスデータを実装する実証的研究のノウハウに加え、科学的な成果を視覚的に伝えるデザインにするための新たな取り組みが求められる。デザイナーとの視覚化の調整や、心理学の介入方略として応用可能性の調整など、各制作段階のプロトコルを構築しながら作業をすすめる。それにより、さまざまな習慣変容場面で実践可能な行動変容テクニックとして発展をさせる。 以上の方策に加え、これまでの研究成果を公表するため、2019年度の国内外の学会で発表するだけなく、Psychology and Healthなどの国際誌に査読論文として投稿する取り組みも早い段階から進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度の研究では、インフォグラフィックスの制作を行う。その際、本年度に実施したようなモデルデータの視覚化の作業において、試作を繰り返し行う必要があることが分かった。そのため、従来の予算よりも制作費用が多くなる。そこで、本年度の研究費の予算の一部削減し、次年度の経費として使用する。
|