研究課題/領域番号 |
17K04346
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
東海林 麗香 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (90550749)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ナラティブ / 学校文化 / 教師の発達 / 学校行事 / 異動 |
研究実績の概要 |
本研究は,学校教師が「児童生徒の多様な教育ニーズに応じた教育実践」という現代的課題に対応するために,どのような個人的・組織的変化が必要か,また,何がそれを促進したり制限したりするのかについて,「ナラティヴ」「学校文化」「学校行事」という観点から検討するものである。日常を異化するような経験によってナラティヴや文化の存在,葛藤,変容は可視化されやすい。そのような機会として本研究では,学校行事と異動に焦点を当てて検討を進めた。 平成30年度は,小学校におけるフィールドワークを行った。運動会の準備期間,当日,運動会前後の日常の様子についても観察を行った。加えて,小学校教師1名にインタビューを行った。また,高校におけるフィールドワークでは学園祭の準備を観察し,教師1名へのインタビューを行った。異動に関しては,異動2年目の高校教師2名の追跡調査を行った。異動に関するインタビューの中で授業についてのナラティヴに変容が見られたが,同時に行った授業観察においては変容はあまり見られなかった。研究課題に照らすと,ナラティヴの変容と共に実践における変容についても合わせて検討することが必要であると考え,授業場面の録画も継続して行った。 これらの調査をとおして,教師ひとりひとりは「児童生徒の多様な教育ニーズに応じた教育実践」のために試行錯誤し,自身の教育実践を省察したり工夫をしたりしていることが明らかとなった。しかしその一方で,組織単位の場面では全体性を優先しがちであること,それのようなことに不全感を抱きながらも,自身の考えを表明しないことが明らかになった。また,ナラティヴの変容と実践における変容は必ずしも連動していないことが授業観察から明らかになった。これらのことから,個々の教師の気づきが,実践および各組織のありようや学校文化の変化にまでは影響しているとはいいがたいことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
小学校に置ける運動会のフィールドワークは1校にとどまった。これは,酷暑や台風により運動会の練習・準備期間のスケジュールが変動し,予定していた2校に通うことができなくなったためである。しかしながら高校1校のフィールドワークを行うことができた。 教師へのインタビューは,行事に関しては小学校・高校各1名にとどまったが,異動に関しては2名の教師に対して2年目の追跡調査を行い,2~3回のインタビューができた。加えて,ナラティヴの変容と実践の変容の関係を見るために,異動2年目の教師1名についてはインタビューと並行して6コマ分の授業観察(録画)をすることができた。 学校教育は組織や制度,経済状況と切り離して考えることはできない。しかしながら代表者の専門とする心理学においては,個人の内面の検討に傾注しがちである。そこで30年度は法学および経済学の専門家との研究会を開催し,本研究課題について異分野の研究者と共に,その意義や課題について議論する機会を設けた。 成果発表については,学校行事についての論文(単独)を1本,異動についての論文(実践者との共同)を2本,学校行事についてのポスター発表(単独)を1件,異動についてのポスター発表(実践者との共同)を1件,行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
継続して,学校行事および勤務校の異動という日常を異化するような経験が,教師のナラティヴにどのように影響するのかについて検討を進めていく。またナラティヴの変容と実践および組織の変容の関係についても検討する。 ナラティヴについてはインタビュー調査を行う。実践や組織のありようについては観察(録画)やフィールドワークによりデータ収集を行う。 学校行事については,これまで小学校と高校でフィールドワークを行ったので,中学校で行う予定である。これにより,校種による組織の違いや児童生徒の発達差も加味して,教師の経験や変容を検討することが可能になると考えるからである。 ナラティヴと授業実践との関係については,30年度から引き続き授業場面の観察(録画)を行うが,アクションリサーチのかたちを取ることとし,ナラティヴの変容が実践に反映できるような授業づくりやシステムづくりについて検討する。 成果発表については,学会におけるポスター発表を3件(行事,異動,授業づくり),学会における自主シンポジウムの企画・話題提供を1件,論文の執筆を2本(行事,異動)行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
教育機関における春休み(3月末)に行ったインタビュー調査のデータ整理を次年度に回したこと,また調査者数が予定より少なかったことにより次年度使用額が生じた。30年度に予定していた調査の謝礼品購入およびデータ整理費として使用する。また費目のうち人件費・謝金については,データ整理を業者に依頼しているため「その他」で計上している。
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