研究課題/領域番号 |
17K04358
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
藤田 敦 大分大学, 教育学部, 教授 (80253376)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 教授法 / 授業デザイン |
研究実績の概要 |
学習内容について「わかる」授業をデザインするために,学習者が「わかった」という状態を,「判る」,「解る」,「分る」という3つのタイプに分類し,それぞれの「わかる」が,どのような授業中の教授学習過程から生起するのかを推定していくことが本研究の目的である。特に,本年度は,まず,3つの観点から「わかる」という心理状態を区別することの妥当性について確かめるために概念整理を行った。教授法や授業デザインに関わる先行研究レビューを通して,「判る」学び,「解る」学び,「分る」学びを対比させ,定義・思考活動の観点から次のように特徴づけた。「判る」学びは,正誤や相違,解法が何であるかを判断できるための学びであり,その判断基準としての決まりを修得していくプロセスとなる。「解る」学びは,事実や現象がどのような仕組み,構造,因果(決まり)によって成り立っているかを解明・発見するための学びであり,決まりを探究していくプロセスである。「分る」学びは,決まりという知恵や知識(学習内容)の価値や有意味性を共有する学びであり,知識の活用や応用を高めていくプロセスである。 続いて,小学校の授業実践記録から,授業中の学びの活動を抽出し,3つのわかるに分類する作業を行った。例えば,国語の物語の授業であれば,①通読や新出漢字調べ,登場人物のプロフィールやあら筋等を整理する学習活動のように,事実や正確な情報を確認する「判る」学び,②登場者の心情や行動の解釈や推測,筋の展開やその理由を説明する学習のように,背後にある因果関係や妥当な論旨を探り出す「解る」学び,③作品が伝えようとするメッセージを感じ取り,感想を他の学習者と共有する学習のように,物語にどのような意味(文化的,道徳的価値等)があるかを分かち合う「分る」学びである。このように,授業における学習活動は,3つの「わかる」のいずれかに分類可能であることを確かめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①3つの「わかる」の概念的妥当性を確認すること,②3つの「わかる」で構成された授業デザインの原案作成をすることが,H29年度の研究計画であった。①に関しては,H28年度から着手していたことでもあり,ほぼ目標は達成できたと思われる。これについての研究成果は学会発表(日本教育心理学会)を行った結果,細かな問題点や課題も明らかになったが,基本的なアイデアに関しては,学会における議論においても認められたと思われる。 ②については,授業実践記録から多様な学習活動を抽出し,3つの「わかる」に対応づけるという分析を行った。その結果,授業デザインの中に3つの「わかる」を組み込んでいく際の具体例を明示することはできた。ただ,計画にあったように授業デザインの原案を明確に提案するというところまでは至らなかった。その点では,次年度に課題を残したことになった。ただ,研究協力校において,①ルーブリックの尺度と,②単元計画のねらいを計画していく際の観点として3つの「わかる」のアイデアを導入し,実践上の効果や課題を整理することができた。これは,今後授業デザインを具体化していく際の重要な知見となっていく。 以上のことから,H29年度の研究は,全体としては「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
まず,H29年度に明らかになった3つの「わかる」という考え方の概念定義上の問題を解消するために,再度,文献研究や他の研究者や実践者からの意見収集を行い,概念の再検討・改善を行う。また,過去の授業実践記録を分析し,具体的な学習活動が,3つの「わかる」のどれに対応付けられるかを推定する作業を各教科毎に行う。その上で,3つの「わかる」を組み込んだ授業をデザインしていくための手順を明確にして,研究協力校に提案する。実際に授業に導入してもらいながら,実践上の課題の洗い出しと効果の検証を行う。具体的には,授業実践者への聞き取り調査によって,指導案の構成段階,授業の実施段階,学習の評価段階において,3つの「わかる」を導入することの利点や問題点について整理する。また,授業中の様子をビデオカメラで記録し,さらなる改善のためのデータとして活用する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究協力校との打ち合せのために計上していた旅費が,相手先負担になったために旅費に残額が生じた。また,購入予定だった心理検査用紙が,過去の研究において残部が生じていたものがあり,H29年度には購入を控えたこと,消耗品等の購入が他の研究費で手当てできたことなどが重なり,次年度使用額が生じてしまった。 次年度は,授業実践に関する文献を最新のものを含めて幅広く収集し充実させたいと考えている。また,多方向から授業場面を記録するための複数台のビデオカメラや360°撮影可能なカメラ等を準備し,実際の授業記録に活用したいと考えている。さらに,動画のテキスト化や授業記録や指導案を収集・分類する作業を依頼するための謝金,研究成果を学会発表するための旅費,研究協力校との打ち合せに要する旅費の使用を計画している。
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