学習者の教材に対する理解状態を,「判る・解る・分る」という3つのタイプに分類して質的な違いを評価することの妥当性を考察し,授業中のどのような教授学習過程から生起するのかを推定し,最後に,それぞれの「わかる」の違いを踏まえた授業デザインを提案することが本研究の目的である。 前年度より,3つの「わかる」を学習活動に組み込んだ単元計画(5年算数『整数の性質』全11時間)を実際の授業で試行し,その効果や課題を整理する研究に取り組んでいる。最終年度は,中学校社会科(2年歴史『田沼の政治と寛政の改革』全8時間)の授業でも単元計画を作成して試行した授業について分析を行った。授業の計画実施者からの聞き取りにより,学習者の理解状態を3つの「わかる」という観点から分類し,ルーブリック評価の観点に導入することで,「わかった⇔わからない」といった2極的な尺度では測れなかった学習到達度の個人差を判別することに役立つことがわかった。また,単元を計画していく際に,それまでは漠然と考えていた個々の授業のねらいを明確に意識するようになったという効果も示された。一方で,①3つの「わかる」の状態を,具体的にどのようなパフォーマンスと対応させるか,②実際の授業には複数の「わかる」が含まれており,それをあえて分類することは実用的ではないなどの課題も明らかになった。 以上を含め,研究期間全体を通じて得た研究成果は,①3つの観点から「わかる」という心理状態を区別することの妥当性について確かめるための概念整理を行い,「判る」学び,「解る」学び,「分る」学びを対比・整理したこと,②小学校の授業実践記録をもとに,3つの「わかる」と具体的な教授-学習行動との関係を推定したこと,③小学校「算数」,中学校「社会」において,3つの「わかる」をねらいとした授業を計画し試行するなかで,実践上の効果と課題を洗い出したことの3点であった。
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