本研究では保育者が障害児や気になる子を保育の中で気になるようになるプロセス、また、保育の状況をインクルーシブな環境だと捉えるようになるプロセスを明らかにし、その認知過程に効果的に介入することで、障害児の発達支援に関わる保育者の力量や専門性を高める相談モデルの構築をめざした。 まず、インクルーシブ保育を実践している幼稚園の日常的な保育カンファレンスに参与観察および面接調査を行い、保育者が日常的に子ども同士の対話的関係の形成に焦点を当てていることを明らかにした。また、乳児保育をしている保育者に気になる子どもを意識するプロセスについて面接調査し、保育者同士で気になることを対話することから気になることが顕在化し、支援を必要としていることが分かった。加えて、10万人規模の自治体2か所の保育者に1000人規模の質問紙による悉皆調査を行い、統計的分析を行った。その結果、インクルーシブ保育への環境意識が高い保育者は、障害児や気になる子どもを含めた保育をクラス内の問題として留めず、園内のカンファレンスや巡回相談など自身の保育をクラスの外に開いて相談し、対話しようとする意識が高いことが確認できた。 こうした結果を踏まえ、①対話生成の臨床的技法を用いて保護者も交えた保育者同士の対話と協働を促進する巡回相談、②子ども同士の対話の内容に焦点を当てて保育を話し合う巡回相談を実施、分析した。その結果、①では対象児の理解と保育者・保護者の協働しあう関係が深まり、対応の困難が解消した。また、②では特に知的に高いが、子ども同士のコミュニケーションが苦手な子どもの理解を深めることができ、インクルーシブな保育環境の意識を測定する評価でもスコアの上昇が確認できた。 以上の成果から、インクルーシブな保育環境の形成には保育者・子ども・保護者での「対話」に焦点を当てた巡回相談が有効であることを明らかにした。
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