研究実績の概要 |
てんかんモデルELマウスについて、筆者らはADHDモデルとしての妥当性を示してきた。行動分析学における衝動性研究パラダイムの一つとして,遅延価値割引がある。これは,即時小報酬と遅延大報酬の選択肢を設ける事態であり,前者の選択が衝動的選択とされる。これまでに筆者らは離散試行課題による遅延価値割引を用いて,ELマウスの衝動的選択を報告してきた。本研究では,よりフリーオペラントに近い並立連鎖スケジュールを用いて,ELマウスと対照系統DDYマウスの選択行動を検討し、離散試行課題での結果と比較した。その結果、異なる手続きの間で差がみられなかったことより、ELマウスの衝動性についての議論をより一般化できると考えられる。 ADHD児の脳波学的知見として健常児に比べてθ波領域が強く、β/θ値が高いことがある(Fox et al.,2005)。最近ではθ/β値が診断基準の一つとしての可能性が議論されており、ADHD児においてこの値を低下させるバイオフィードバック訓練も試みられている(Van Doren et al., 2017)。そこでADHDモデル動物として検討されている高血圧自然発症ラット(SHR)およびその対照系統であるWKYの硬膜上および海馬CA1において、安静時の脳波を測定し、周波数分析を行い6つの周波数帯(δ,θ,α1,α1,β1,β1)に分類した。また、ADHD治療薬methylphenidate投与による効果も検討した。その結果、θ/β値には系統間に違いや薬効は認められなかった。SHRはこの脳波学的指標においてはヒトADHDとは異なるのかもしれない。一方で、さらに詳細に周波数分析を行うことで新たな知見が見出される可能性もある。また、無投与時にSHRの海馬β1が対照系統よりも強く、これがMPH投与により減弱する傾向を示した。
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