研究課題
てんかんモデルELマウスについて,筆者らはADHDモデルとしての妥当性を示してきた。行動分析学における衝動性研究パラダイムの一つとして,遅延価値割引がある。これは,即時小報酬(SS)と遅延大報酬(LL)の選択肢を設ける事態であり,前者の選択が衝動的選択とされる。これまでLL選択肢の遅延時間を変数として衝動性を解明してきたのに加えて,本研究ではSS選択肢の遅延時間を変数とした。その結果,DDYマウス(対照系統)では2価値の心理的等価点が0秒と7.5秒の間に存在する可能性が示唆され,先行研究を支持した(Kubo et al., 2014)。ELはSSの遅延時間が0秒の場合に有意に多くの反応をSSに割り当てており,即時強化を選好する衝動的選択を示し,ADHDモデルとしての妥当性が高まった。ミスマッチ陰性電位(MMN)様反応は,標準刺激に混入した逸脱刺激に対して出現する陰性方向の事象関連電位であり,前注意過程を反映する。ADHD児ではMMN振幅が健常児に比べて有意に低いという知見がある (Kemner et al., 1996) 。本年度は,WKY(対照ラット)とSHR(モデルラット)における標準的なオドボール刺激に対するMMN様反応を計測し,さらにmethylphenidate投与効果を検討した。その結果,大脳皮質表面で,WKYでは無投与時に出現していたMMN様反応が投与により消失し,一方SHRでは無投与時には出現しなかったMMN様反応が出現するというMPHの逆説的効果が確認された。ADHDが注意のみならず前注意過程を含んだ不全である可能性がモデル動物において示唆された。またADHDの臨床的知見と治療薬効果がモデル動物で表現可能であることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究の骨子であるモデル動物を用いた脳波研究と行動分析学的研究の両面について,それぞれ必要な知見を得られたこと。このうち,脳波研究においては,標準的オドボール刺激に対するMMN様反応によって注意表出以前の認知過程からADHDの不全が生じることと,methilphenidateの逆説的効果がモデル動物において表出した意義は小さくなく,行動分析学的研究においては,SS選択肢の遅延時間を変数とすることで,時間と報酬量の2価値の関係を幅広く捉えることができた。
ひきつづき,脳波研究と行動分析学・行動薬理学的研究の双方からADHDモデル動物を用いてADHDの不注意と衝動性の原理を探るとともに,応用行動分析をより精緻化するための行動原理を究明する。そのために,ELマウスの他種の割引課題による衝動性や潜在制止学習による不注意を検討し,また,ラットに続いてマウスのミスマッチ陰性電位を指標とした前注意機能を検討する。これらをまとめて,本研究課題全体で得られた体系的知見を総合考察する。
オペラント行動実験装置の制御プログラムについて、すでに専門業者に詳細設計を依頼し、当初は2018年度の後半に完成予定であったが、制御装置のハードウェアのスペックに制約があることが判明し、業者の作成作業に遅れが生じているため。
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