研究課題/領域番号 |
17K04372
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研究機関 | 聖心女子大学 |
研究代表者 |
岸本 健 聖心女子大学, 文学部, 准教授 (20550958)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 指さし / 1歳齢児 / デコレーテッドルーム |
研究実績の概要 |
本申請課題の目的は2点である。1点目はポスターや玩具によって装飾された部屋であるデコレーテッドルーム内での母子間相互交渉において観察された1歳齢児の指さしの量が,後の児の言葉の発達を予測するとする先行研究を追試することであり,2点目は,デコレーテッドルーム内での1歳齢児の指さし産出を促進できるような介入を実施することで,その児の言語発達を促すことができるかどうかを確かめることであった。 本年度は,デコレーテッドルームにおける1歳齢児の指さしが,児が1歳半,そして2歳齢になった時のデコレーテッドルームにおける指さし量および言葉の量とどのように関連しているのか検討した。先行研究では,児の語彙量の増加する1歳半から2歳の間に指さしの頻度が減少することが示されていた(Luke et al., 2017)。この結果について,申請者が追試を行ったところ,児の中には,確かに1歳半から2歳にかけて,指さしの産出を減少させる者もいた。一方で,この時期にも指さしを増加させる者もいることが分かった。1歳半から2歳にかけての指さし頻度の個人差がなぜ生じるのかについて検討した結果,1歳半時におけるデコレーテッドルームで指さし頻度が多い児ほど,1歳半から2歳にかけての指さし頻度が少なくなることを明らかにした。この結果は,1歳半から2歳にかけての指さしの減少が,先行研究(Luke et al., 2017)で主張されていたような語彙量の増加のためではなく,先行する1歳半時のデコレーテッドルームでの実験が,2歳齢時におけるデコレーテッドルームでの児の指さし頻度に影響を及ぼす,「持ち越し効果」のためである可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1歳齢児の指さしをデコレーテッドルームで縦断的に観察する際に,先行する実験が後に実施される実験結果に影響を与える持ち越し効果が確認されたため。 デコレーテッドルームにおける1歳齢児の指さし産出の促進を試みる本申請課題では,実験者が介入することで1歳齢児の指さしを増やせるかどうかを,デコレーテッドルームを用いた縦断的観察によって明らかにしようとしている。本研究で示された「持ち越し効果」の存在は,デコレーテッドルームにおいて縦断的に観察を行う際に,1歳齢児による指さしの増加あるいは減少が,実験者による介入ではなく,「持ち越し効果」で説明できる可能性を示している。今後,実際に介入前後の1歳齢児の指さしの頻度をデコレーテッドルームで検討する際には,それが介入の効果であるのか,「持ち越し効果」なのかを説明できる分析を検討する必要がある。この分析手法について検討せねばならず,当初予定していた,デコレーテッドルームにおける母子間の観察を開始できなかったため。
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今後の研究の推進方策 |
前述のように,本申請課題において用いるデコレーテッドルームにおける縦断的観察では,先行する実験が後に行われる実験結果に影響を及ぼす「持ち越し効果」が生じる可能性が示された。本申請課題では,1歳齢児の指さしを,実験者による介入により増加させられるかどうかを検討する予定であるが,1歳齢児の指さしが,実験者による介入により増加したように見えても,本研究で示唆された持ち越し効果の影響はなかったかどうか,考慮に入れた分析をする必要があることが示された。そこで今後は,介入の有無だけでなく,先行する実験での1歳齢児の行動(指さしの頻度,どの対象を指さしたか,など)を独立変数に組み込み,これらが従属変数である2歳齢時の指さしの頻度に影響を及ぼしているかどうかを検討できる統計的手法を用い,分析を行う予定である。
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