本研究の目的は,乳幼児の指さし産出を促進することによって,乳幼児のその後の言葉の発達を促すことを通し,学齢期に至るまでに生じうる言葉の遅れの予防を目指すことであった。 2022年度までに,ポスターや玩具で装飾された部屋(デコレーテッドルーム)における乳幼児とその母親の2者の相互作用を観察し,よく指さしを産出する母親の乳幼児ほどよく指さしすることを見出していた。この結果を受け,2023年度には,指さしを産出するように母親に促すことが,乳幼児の指さし産出を促進するか検討する計画であったが,2023年4月に申請者が聖心女子大学副学長に着任した。このため,校務が増加し,研究を進めることができなかった。そこで,2022年度までに得られていたデータをさらに分析し,どのような母親がより指さしを産出していたのかを検討した。その結果,年上のきょうだいのいない一人っ子の乳幼児の母親と比較して,年上のきょうだいがおり,研究実施時にそのきょうだいが不在であった母親ほど,よく指さしを産出していたという興味深い結果が得られた。恐らく,普段複数の子どもを相手にする母親は,運動能力や言語能力の卓越した年上のきょうだいとよく関わる一方,まだ喋ることのできない乳幼児とかかわる時間が少なくなっており,それゆえ,年上のきょうだいの不在の状況では,十分にかかわれていない乳幼児に対して母親はより時間を割いて意思疎通を図っていた可能性がある。この結果は,乳幼児に対する母親の指さし産出を抑制する要因に,年上のきょうだいの存在が関連している可能性を示唆するものである。 コロナ禍が一応の収束をみせたいま,次のパンデミックに向け,観察法を用いた発達心理学者がどのようにコロナ禍を凌いだか,その実態を残すため,コロナ禍の観察研究者の実態についてインタビューを実施し,論文としてまとめた(岸本・蒲谷・佐藤,印刷中)。
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