研究課題/領域番号 |
17K04375
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
外山 紀子 早稲田大学, 人間科学学術院, 教授 (80328038)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 認知発達 / 概念獲得 / 病気の理解 / 公正世界信念 / 内在的正義 / 共存モデル |
研究実績の概要 |
2018年度は,次の2つの研究を行った。 (1)公正世界信念と科学的理解の共存:病気に関する民俗学的信念として公正世界信念(人間の行いには公正な結果が返ってくるとする信念)をとりあげた。この信念によれば,善い行いは最終的に報われ,不道徳な行いは最終的に罰せられる。「罰があたる」「努力は報われる」,あるいはピアジェの内在的正義(病気の原因は過去の不道徳な行為にある)は,ここから派生したものといえる。 病気の治療について,この信念と科学的理解がどのように共存しているのか,またそれが発達的にどう変化していくかを検討するために,幼児・小学生・大人を対象とした個別インタビュー実験を行った。とても深刻な病気にかかった二人の登場人物が,一方は努力あるいは痛みを伴う治療に取り組み,もう一方は努力あるいは痛みをほとんど伴わない治療に取り組んだというストーリーを提示し,どちらが早く治癒するか判断を求め,判断理由の説明を求めた。その結果,児童期半ば頃までは,努力あるいは痛みを伴わない治療に従事した登場人物の方が早く治ると判断すること,しかし大人になるにつれ,努力あるいは痛みを伴う治療に従事した登場人物の方が早く治るとする判断が多くなった。ただし,大人は努力する人が患者本人でない場合,また病気が軽症である場合には,このように判断しなかった。つまり,大人は「痛みや努力の程度は病気の治りやすさに影響しない」という科学的理解と,「努力した者,痛みを経験した者は報われなければならない」という信念とを共存させており,これらを文脈に応じて使い分けていることが示された。 (2)病気に関する社会的情報の収集:2017・18年度に引き続き,保育園での縦断観察調査を実施し,登園時や外遊び,散歩後,食事前の手洗いやうがい場面などで,病気の予防と治療についてどのような実践が行われているかを検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2017年度は,病気理解に関する研究レビュー論文をまとめ,研究の方向性を確認すると共に,看護師対象の病気理解調査を実施した。これらに基づき,2018年度は,病気に関する民俗学的信念として,公正世界信念をとりあげ,幼児から大人を対象とした個別インタビュー実験を行い,実証的データを得ることができた。また,病気予防や治癒,衛生習慣に関する社会的情報を検討するための観察調査も継続的に実施することができた。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は,(1)2018年度に実施した個別インタビュー実験を投稿論文にまとめること,(2)2017年度・2018年度に実施した観察研究のデータ整理と検討を行い,やはり投稿論文にまとめたい。(1)については,努力や治療を要する治療の効果について発達的変化が認められたこと。児童期半ば頃から,「副作用」といった一見科学的な用語が含まれる生物学的説明と,「努力や痛みは報われなければならない」といった信念とが個人のなかで共存していることが明確になっていくこと。大人は病気が重い場合には民族的的信念に依拠した判断・説明を行うが,病気が軽い場合には科学的な判断・説明を行いやすいこと。以上3点のデータに基づき,共存メカニズムについて議論したい。(2)については,保育園や家庭の生活場面において,保育士や養育者(主に母親)が幼児にどのような社会的情報を与えているか,特に病気の原因と治療プロセスに関する説明をとりあげ,こうした社会的情報と幼児の理解を比較対照させ,病気理解の獲得プロセスを論じたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
病気に関する民族学的信念に関する一次資料収集のための国内出張を計画していたが,2018年度は個別インタビュー実験を中心にデータ収集を行ったため。
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