研究実績の概要 |
本研究の目的は,糖尿病を有する夫婦の疾病受容プロセスを解明し,具体的な臨床介入の方法について検討することであった。 《成果1》夫婦の適応プロセスを理解するための補助ツールを開発した。ツールは,糖尿病を有する夫婦は「食の好み」,「健康志向」,「食事づくりの手間」の3要素のバランスをとりながら食事療法に適応していくとする理論枠組み(東海林・安保, 2017)に基づいて,夫婦の食事療法への態度や取り組みを評価するものとなった。 《成果2》文献レビューを通して,糖尿病の個人支援と家族支援について,支援パラダイムの捉え直しを行なった。その結果,糖尿病を「個人の病い」と捉える視点から「家族の病い」と捉える視点へと移行させて心理支援を考える必要性が示され,夫婦の適応プロセスを理解するための理論枠組みの骨子を整理することができた。 《成果3》糖尿病を有する夫婦の疾病受容プロセスに関して,PRISM(Sensky & Buchi,2016)を用いて5組に面接調査を行った。糖尿病患者のPRISMの特徴として,心理的な引き受けとともに徐々にSISの距離が縮まる可能性が示された。質的データにおいても時間経過とともに心理的な引き受けのプロセスが進行していく様子を表しており,糖尿病における疾患の引き受け(受容)は,PRISM上で他の疾患とは異なる様相で表現されることが明らかになった。 《成果4》文献レビューと本研究の成果を踏まえて,糖尿病の家族支援における指針の整理と糖尿病夫婦の心理支援における課題の整理を行った。その結果,家族支援の有用性は確かなものであると結論づけられた。ただし,夫婦支援独自の視点が考慮されていない点,糖尿病患者とパートナーの「病いの引き受け」の程度は必ずしも一致していない点について,より積極的な医療的介入,心理的介入が提供される必要があるという課題も明らかとなった。
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