本研究は、精神疾患に対するCBTの経験を豊富に持つ熟練したセラピストに、摂食障害患者へのCBTを担当することに対する心構えをモデル化し、数値化することが困難な、摂食障害のCBTにおけるセラピスト側の懸念や不安を含めた心構えを理論化し、摂食障害へのCBTの普及が十分でない要因の一端を明らかにすることを目的とした。方法として、2年間の専門的研修を修了し、 8年以上の心理臨床の経験を有し、うつ病、不安障害、BNを含めた精神疾患15症例以上のCBT担当経験を持つ5名のセラピストに、BNに対するCBTを提供する際に、大切にしていることや不安・懸念を抱いていること、注意を払っているポイントや経験から学んだコツなどを含め、1対1の面接での半構造化インタビューの形式で行い、修正版グラウンデッド・セオリ-・アプローチ(M-GTA)にもとづき、モデル化を行った後、摂食障害や摂食障害へのCBTに固有の特徴を明らかにするために、CBTが心理療法の第一選択とされているうつ病、不安障害へのイメージ形成プロセスのモデル化も同時に行い、それらとの差異を比較検討した。結果、27概念、9カテゴリーが生成された。クライアント特性理解のポイントとして【矛盾するこころ】を症状維持要因として理解・整理を試みようとしていること、疾患理解のポイントとして医学的知識・栄養学的知識の必要性や身体面の安全性への不安、精神病理に直結する体重測定の侵襲性への懸念などで構成される【からだ取り扱い不安】、セッション構造への配慮のポイントとして食行動記録の重要性を認識しながらも制約であるとも認識する【日記によるセッション支配】が懸念されていること、などが判明した。これらの要素が、摂食障害のCBTに独特な要素としてセラピストの不安や懸念の対象となっていることを通して、CBTの普及が発展途上にある現在の状況に影響している可能性が示唆された。
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