研究課題/領域番号 |
17K04406
|
研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
松田 修 上智大学, 総合人間科学部, 教授 (60282787)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 見当識 / 認知機能 / 認知症 / アルツハイマー病 |
研究実績の概要 |
もの忘れ外来を受診した187人の認知機能検査のデータを用いて、見当識とその他の認知機能との関連を分析し、見当識障害の認知神経心理学的機序を検討した。使用した認知機能検査はMini Mental State Examination-Japanese(MMSE-J)、日本語版COGNISTAT(COG)、Frontal Assessment Battery(FAB)だった。全体の平均年齢は79.5歳(標準偏差=8.7)、MMSE-Jの平均得点は23.3点(標準偏差=5.1)で得点範囲は10~30点だった。また、187人のうち、アルツハイマー型認知症(AD)の臨床診断基準を満たした68人のデータを用いてMMSE-J総得点区分別に見当識の各項目の通過率を算出し、ADの進行度と見当識障害との関連を検討した。AD群の平均年齢は81.7歳(標準偏差=6.5)、MMSE-Jの平均得点は21.1(標準偏差=4.1)で得点範囲は10~29点だった。 MMSE-Jの時間見当識項目合計との間の相関係数が1%水準で有意でかつ絶対値が.500以上だったのは、MMSE-J遅延再生、COG記憶、FAB合計だった。一方、MMSE-Jの場所見当識項目合計との間の相関係数が1%水準で有意でかつ絶対値が.500以上だったのは、COG類似、FAB合計、COG理解、COG呼称、FAB葛藤指示、COG判断、FAB概念化だった。これらの結果から、見当識のタイプによって関連する認知機能に違いがある可能性が示唆された。 AD群における見当識の通過率を算出したところ、年を除く日付(月・日・曜日)の通過率は、MMSE-J得点24点以上で65%だったが、10~23点で0%だった。一方、季節の通過率は、24点以上で100%、18~23点で86%、10~17点で50%だった。季節は日付よりも見当識が保持されやすい可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍の影響で学会発表や新規検査の開発を十分に行うことができなかったが、既存の検査を使用しての臨床データの蓄積は順調に進み、ようやく定量的な分析が開始可能な段階に到達することができた。まだ初期分析ではあるが、時間見当識と場所見当識のどちらにも同じ程度の強さで関連する認知機能指標がある一方、それぞれの見当識との関連の強さに違いのある認知機能指標が存在する可能性が示唆された。また、アルツハイマー型認知症の全般的な認知機能障害の重症度によって低下が顕著な見当識の側面と、比較的保持されやすい側面がある可能性が示唆された。この点は見当識障害の発現機序の解明に重要な示唆を与える結果といえるのではないだろうか。 以上の点から、現在までの進捗状況をおおむね順調に進展していると評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
コロナ禍の影響で新規検査課題の作成とその信頼性や妥当性を検討するためのデータ収集が思うように進んでいないため、今後は既存の認知機能検査を用いてさらにデータ収集を継続し、よりサンプルサイズの大きな標本を用いて、見当識障害のメカニズムやアセスメントのあり方について検討していきたい。また、これまでの成果の一部の研究発表にも力を注ぎたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響で、在宅勤務を余儀なくされた期間が続き、学会出張、論文発表、新規検査の開発とその検討に必要なデータ収集の目処が立たなかったことが大きな理由である。 21年度も、コロナ禍の影響は続くと思われ、新規検査の開発・検討に必要なデータを十分に得ることが難しい状況が続くと予想される。可能な範囲で新規課題の作成に取り組むつもりだが、状況によっては、本研究課題の中核的な目的である見当識障害のメカニズムの検討に注力するために、既存検査のデータ数のさらなる追加を優先し、そのデータを用いた分析に力を入れる可能性を視野に入れた研究計画を考えている。その場合、必要に応じて、データ解析に必要な最新の統計ソフトの購入や使用するパソコンなどの機器の購入に研究費を使用する予定である。 また、オンライン発表を含め、学会発表あるいは論文投稿など、これまでの研究成果の一部を発表するために研究費を使用していく計画である。
|