見当識障害の神経心理学的なメカニズムを検討するために、認知機能低下を主訴に物忘れ外来を受診した患者328人(平均年齢79.61歳、SD=8.49)の神経心理学的検査(MMSE-J、COGNISTAT、FAB)の成績を統計学的に解析した。MMSE-Jの見当識関連の成績から、分析対象者の見当識障害の有無を分類し、障害の有無を従属変数、見当識以外の認知領域を反映する神経心理学的検査の項目得点を独立変数とするロジスティック回帰分析(尤度比による変数増加法)を行なった。認知領域には、記憶、言語、視覚-運動、実行機能/前頭葉機能が含まれた。これらの認知領域に関する項目のうち、見当識関連項目との相関係数が0.40以上を示したものを独立変数としてロジスティック回帰分析に投入した。 MMSE-J見当識関連項目(満点10点)の合計得点が10点未満を「障害あり」、10点を「障害なし」と分類して行った分析では、COGNISTATの記憶、MMSE-Jのシリアル7、FABの概念化の3項目が有意な変数として選択された。さらに詳しく分析するために、時間見当識関連項目(満点5点)が5点未満を「障害あり」、5点を「障害なし」とし、場所見当識関連項目(満点5点)が5点未満を「障害あり」、5点を「障害なし」として、それぞれ分析を行なった。その結果、時間見当識では、記憶とシリアル7の2項目が有意な変数として選択された。他方、場所見当識では、これら2項目に加えて、COGNISTATの呼称、概念化、FABの語流暢性も選択された。このうち、オッズ比が最も高かったのは、概念化であった。 以上の結果から、時間と場所の見当識障害は、近時記憶およびワーキングメモリの機能低下によって生じる可能性があること、また、場所の見当識障害の生起には、前頭葉/実行機能の低下が、より強く関与する可能性があることが示唆された。
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