研究課題/領域番号 |
17K04407
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
齋藤 憲司 東京工業大学, 保健管理センター, 教授 (50225702)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 学生相談 / 連携・恊働 / 連働 / 若手・中堅カウンセラー / 教職員 / 教育コミュニティ / 研修プログラム |
研究実績の概要 |
高等教育における重要な支援機能である学生相談では、学生本人への心理カウンセリングを中心に据えると同時に、教職員や親・家族等との多様な連携・恊働を含んだ重層的な対応が必須となる。しかしその知見と論理構築はいまだ限定的な状況であり、齋藤(2015)では自身の一連の研究を集約して、個別相談と教育コミュニティを結ぶ総合的な視座の必要性を唱え、「連働」という新たな包括的概念を提唱している。本研究では、この概念がいっそうの有効性を獲得 していくために、状況の異なる全国の大学における実践や様々な年齢・立場・学派のカウンセラー群の体験と照合し、連携・恊働の対象となる関係者の観点や体験も検証することによって、若手・中堅のカウンセラーが「連働」の視点と対応力を身に付けていく方略の確立を目的としている。 2021年度の研究実施に際しては、前年度までに実施した「4.カウンセラーを対象とする調査」ならびに「5.教職員を対象とする調査」を活用して「6.若手カウンセラーのための研修プログラムの作成」と「7.模擬研修の実施」へと展開していくことを目指していた。しかるに2019年度終盤から新型コロナウイルス感染症の蔓延拡大が収まらず、2020年度に引き続き2021年度も研修プログラムの作成と模擬研修実施に必須となる若手・中堅カウンセラーの参集を見送らざるを得なくなった。そのため研究の方向性を再検討し、協力者の参集を必要としない事例研究・実践研究を主軸に、コロナ禍の中での関係者との連携・恊働の展開という新たな観点を加えて、現在の状況に応じた研究を展開している。これらの成果から「連働」モデルは関係者とのオンライン交流を含み込んだ展開を志向して進化を続けており、研修プログラムの作成・試行もオンラインによる実施が可能な内容とすべく検討を行っている。また、一連の研究成果を取り入れ、各種研修への部分的適用も開始している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究者は学生相談に従事する心理カウンセラーとして、日々、学生本人とのカウンセリング及び教職員や親・家族へのコンサルテーションに従事している。また学生支援全般に通じている立場から学内外の関連委員会にて貢献を続けている。2018年度の学生支援センターバリアフリー支援部門の整備(コーディネータ代行)及びハラスメント防止のための研修担当・教材作成、2019年度における特任講師(フルタイムのカウンセラー)の任期満了に伴う後任の選考・着任までの5ヶ月の欠員期間を補うべく実質2名分の相談件数の担当というやむを得ない状況によって本研究の進展に大きな遅れが生じていたため、2020年度の研究期間延長をお認め頂き、一気に研修プログラムの作成並びに模擬研修の実施へと歩を進める予定であった。しかるに新型コロナウイルス感染症の拡大・蔓延のために有識者や若手・中堅カウンセラーの参集を求めることができず、学内的にもこの危急時における学生相談・学生支援体制の再構築にも奔走する立場にあったため、研究への取り組みは大きく制限されざるを得なくなっている。また本学学生支援センターの大幅な改組に伴って、6部門に分割していた組織・活動を新たに学生相談部門と未来人材育成部門の2部門体制に再編することとなり、研究者は相談・支援にかかる豊富な経験と学内外の体制に詳しい立場から、新体制の構想・組織化・活動に全面的に協力を求められる状況が続いていることも研究に充てる労力・時間が限定されざるをえない現状に大きく作用している。また2021年度前半は郊外型キャンパスの特任教員(週4日のカウンセラー)が不在となったため、欠員期間を補う体制づくりに奔走する状況となっていた。このように社会状況と学内状況が相まって、まずは相談・支援活動の十全な展開と安定的な体制の再構築に注力すべき状況が継続しているため、本研究の進捗が遅延している次第である。
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今後の研究の推進方策 |
前項に記した学生相談体制並びに総合的な学生支援体制の過渡期的な状況は、2021年度より新たな組織・人員にて本格的な活動を開始しており、さらなる充実化を目指して現在も活発な検討が続いているものの、研究者の関与すべき役割は徐々に縮小していく兆しが見えており、これまでの研究計画の遅れを挽回しうる状況になることが期待される。また、所属する保健管理センターにおいては、研究者は副センター長かつ主任カウンセラーとして大学全体の相談活動のバランスを取るべく機能する必要があり、着任3年目となる特任講師並びに着任して1年未満の特任助教や4名中2名が交代した非常勤カウンセラーをチームとしてまとめると同時に研究への協力・助言を求めるとともに、学内外の関係者との情報共有や意見交換を適宜行いつつ研究遂行を心がけていくことになる。一方、新型コロナウイルスの感染状況が収束するまでは研究活動への取り組みに制限が生じることは否めないが、カウンセラーとしての相談実践があってこその研究であるという基本姿勢を堅持しながら、感染防止に十分に留意しつつ可能な範囲で計画実施を進めていきたいと考えている。特に研修プログラムの開発・検討に際しては、大学間の相違やカウンセラーの特性を考慮して全国各地から参加者を選定する必要があるが、都県を越えた移動や交通機関の使用制限がどの程度緩和されるかを見定めつつ、自校並びに近隣大学のカウンセラー等の参加による開催に切り替える、オンラインによる研修プログラムの実施も視野に入れていく、等での柔軟なプログラム実施を考慮していくことになる。学会等における研究発表については、過去2年間はオンライン開催ゆえに参加が容易になった側面もあって積極的な発信を続けており、2022年度も同様の姿勢で臨むとともに、研究成果をより豊富な内容で提示すべく所属機関の紀要等をさらに活用する等で対応していくことになる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究者は心理カウンセラーとして学生相談に従事するとともに、学生支援全般に係る学内外の関連委員会にて貢献を続けているため、研究に労力・時間を割くことが困難な事態が不可避的に生じる。2018年度のバリアフリー支援整備(コーディネータ代行)・ハラスメント防止体制の充実化、2019 年度の特任講師(フルタイムカウンセラー)の交代に伴う5ヶ月の活動補填という状況ゆえ1年間の研究期間延長をお認め頂き、2020年度に一気に研修プログラム作成並びに模擬研修実施を進める予定であった。しかるに新型コロナウイルス感染症の蔓延によって研修試行に若手・中堅カウンセラーの参集を求めることができず、学内的にも学生支援体制の再構築に奔走する事態となったため、もう1年研究期間延長を申請して承認を得ている。また2021年度も学内の組織改革とスタッフ交代に加えてコロナ禍収束に至らなかったため、研究の進展は限定的とならざるを得ず、改めて期間延長をお認め頂いている。2022年度には学内の学生支援体制が基盤を固めて研究者の関与する役割は相対的に小さくなり、研究計画の遅れを挽回することが可能になりつつある。連携・協働に係る研修プログラムの作成・試行が眼目となるため助成金の使途は旅費が中心となっているが、新型コロナウイルスの感染状況を見定めつつ、オンラインでの研究遂行・研修試行も加味して、適正に計画実施を進めていく予定である。
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