本研究課題では,令和2年度までに,大学生の基本属性やレジリエンスが1年後のメンタルヘルスをどのように予測するかを検討した。令和3年度は予定よりも遅れていた研究成果発表を主軸とし,1年間の縦断的・予測的調査のデータの英文論文化を進め,現在査読中となっている。 また,本研究課題においては,日本人学生・留学生の双方において,レジリエンスのうちの肯定的な未来志向の高さが,メンタルヘルスの悪化を防ぐ要因となり得ることが示された。肯定的な未来志向に影響を与える要因のひとつとして,別途先延ばし行動の変容が候補として挙がったため,先延ばし行動を含めた横断的調査研究を令和2年度中に行った(所属機関からの研究費を利用した関連研究)。先延ばし行動傾向の強さと肯定的な未来志向の強さは負の相関があり,先延ばし行動は精神症状を強め,肯定的な未来志向は精神症状を弱めるが,先延ばし行動から精神症状への影響は日本人学生の方が留学生よりも相対的に大きいことが示された。 これらの知見や,国内外における先延ばし行動の変容に関する臨床実践の知見を受けて,令和3年度までに,特に日本人学生における先延ばし行動の変容と肯定的な未来志向の向上の要素を含んだ臨床実践の試行を継続した。その中で,自身の将来に明確な目標がなく,先延ばし行動傾向も強い学生には,自身の行動変容のステップすらも大きな負担として受け取られる懸念が生じた。これらのことから,肯定的な未来志向や先延ばし行動に関わる臨床介入を効果的にかつ学術的に検討するには,その前段階として,最も介入によるベネフィットがある対象の見極めや,これらの介入に入る前の,準備段階としての心理学的支援について検討する必要性が示唆された。 本研究課題を通して浮き彫りとなった臨床的疑問・学術的検討課題を,将来の研究において着実に克服していくことが必要と考えられる。
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