研究課題/領域番号 |
17K04432
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
福田 廣 山口大学, その他部局等, 名誉教授 (20100977)
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研究分担者 |
福田 みのり 山陽小野田市立山口東京理科大学, 共通教育センター, 准教授 (10469330)
小杉 考司 専修大学, 人間科学部, 教授 (60452629)
小野 史典 山口大学, 教育学部, 准教授 (90549510)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 統制感の錯覚 / メタ認知 / 印象評定 / 社会的望ましさ / 統計モデリング / 認知課題 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は「統制感の錯覚」を鍵概念として,嗜好から依存にいたる連続体における閾値モデルを構築し,この閾値モデルに影響しうる状況要因の誘因価を評価しつつ,臨床的場面での応用が可能な介入方法と評価という枠組みを提供することである。本研究は実験,調査,臨床的参与の三班が並走する形で進められている。今年度の各班の実績概要は次のとおりである。 実験班は,錯覚量に影響を与える独立変数として,色と時間の認知の2点に着目して実験研究を行った。色の認知に関する実験では,人が思い描く代表的な青色の許容範囲を出身地の自然度で比較した。この研究成果を中四国心理学会第75回大会にて発表した。時間の認知に関する実験では,因果関係の知覚が時間知覚に与える影響を調べ,この研究成果を日本認知心理学会第17回大会にて発表した。 調査班は,「不確実性への不耐性尺度」を中心に,依存症との連続体を前提とした調査をするべく,依存対象をアルコールを中心に据えることとした。関連する文献調査及び,臨床の専門家とのヒアリングを経て,DSM-Vなどの基準に基づく尺度,メタ認知尺度,衝動性尺度などの項目を収集した。また調査対象者を広く募集するため,オンライン調査ができるフォームを整えており,次年度早々の実施を目指している。 臨床班は,実験班及び調査班からの情報を踏まえて本研究の臨床的応用として実践的介入が許される調査協力現場に協力依頼を行い,当該病院の倫理委員会における審査を経て,臨床的介入ではなくインタビュー(面接)調査という形で研究を行う運びとなった。アルコール依存症,ギャンブル依存症,各2名,計4名の対象者に対して,依存症と診断される前の段階から診断後,治療の過程,回復途上にある現在までの時間軸の中で依存対象に対する感情の変化等について半構造化面接を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実験班は,人が他者と同じ認知をしていると錯覚していることに,生活環境が影響を与えていること,また因果関係の知覚も刺激の大きさによって大きく歪むことを明らかにしている。実験班は概ね計画通り,複数の認知実験の結果を報告しており,大きな遅れは見られない。 調査班は尺度選定に関して,臨床的経験のある専門家をチームに追加,尺度項目に助言を求めたところ,調査票のデザインを修正すべき点の指摘を受け,急ぎ再設計することとなった。また調査実施に際して,当初は調査会社の利用を考えていたが,別の手法としてクラウドソーシングによる参加者募集が有効であることが明らかになった。この代案に対応するべく,webで行える調査フォームのデザインを自前で準備する必要があり,この準備のため数ヶ月の遅れが生じている。 臨床班は懸念材料であった調査協力機関ならびに調査対象者の選定を終え,実際に複数のインタビュー調査を行った。今後は収集したデータを全て文字に起こし,複線径路・等至性モデル(TEM)などにより質的分析を進めていく。個人ごとのデータ分析後,依存症の種類による共通点,類似点,相違点についても可能な限り明らかにし,依存症に至り回復の過程にある患者の予防や支援の可能性について考察する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は最終年度にあたるため,各班からの結果を統合して一定の提言をするべく,成果の集約を行なっていくことが大きな目的である。 実験班は,色や時間感覚など,我々が他者と同じであるとか正確に判断していると認知していても,知覚刺激のインパクトの大きさや生活環境が影響していることを明らかにした。これらの基礎的な人間の認知の歪みから,どのような行動の差異が見られるか,またそれが生活環境からどの程度影響されているかを検証の基軸とし,今後も複数の認知実験によって検証してくことを計画している。 調査班は項目の選定,Webシステムのデザインなどで当初の予定よりは遅れているものの,今年度中に全ての準備を終わらせたため,次年度からは遅れを取り戻せるよう,急ぎ調査の実施と分析,報告を進めていく。依存の程度に影響しそうな自己の制御に関する知覚,不確実さに対する耐性など心理尺度によってある程度の相関関係が描けることが予想されており,実験班と臨床班の橋渡しとなるようなエビデンスを提供することが求められている。 臨床班は得られたデータの分析に時間がかかることが予想されるため,ひとまずは今年度に入手したデータを慎重かつ多角的に分析することを進めるものとする。 周知の通り,2020年2月ごろから生じた世界的パンデミックの影響により,次年度に開催される予定であった国際心理学会(ICP2020)の開催が一年延期になっている。国内の学会においても同様の傾向が予想され,成果報告が予定通り進まない可能性がある。他にも認知実験は実験参加者との近接な接触が想定されることから実施が難しく,臨床班も医療現場の対応の難しさから新たなデータ収集など協力が望めない可能性がある。そのような場合でも,現在まで蓄積されたデータと知見に限定して考察,理論化を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
調査班のweb調査実施が計画段階で修正が加えられたため,計画の実行が今年度末(3月)になることとなったが,さらにコロナ問題により実施時期の見合わせを考える必要があったため,次年度使用に持ち越されることとなった。その他,次年度に開催される国際心理学会への参加を計画し,次年度に残すことを考えて次年度使用額が生じた。 国際心理学会については,開催延期が決定したため,現在これに代わる国内外の成果発表場所を考えているところである。また最終年度に予定していた公開ワークショップについても,現在の状況を鑑みるに,人を集めて行うイベントは計画しにくく,オンライン会議など別の方策を考える必要があり,これらに使用用途を変更することを検討中である。
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