研究課題/領域番号 |
17K04439
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研究機関 | 尚絅学院大学 |
研究代表者 |
池田 和浩 尚絅学院大学, 総合人間科学系, 准教授 (40560587)
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研究分担者 |
西浦 和樹 宮城学院女子大学, 教育学部, 教授 (40331863)
佐藤 拓 明星大学, 心理学部, 准教授 (10577828)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 自伝的記憶 / 転換的語り直し / メタ記憶 / 希望感 / 満足感 |
研究実績の概要 |
本研究は,転換的語り直しと記憶の概括化との関連性を明らかにすること、および、転換的語り直しから生み出される心理・行動的波及効果を検証することを目的としている。平成30年度は、語り手が有する語り直し方略特性とメタ認知特性との関連性を検証することで語り直し特性の構成概念を検証し、語り直し方略がもたらす認知処理的な波及効果を現在の満足感および未来への希望感の生起の側面から検証した。 276名の参加者は,記憶の語り直しの3方略の特性を評定するために語り直し特性尺度(Re-TALE)に評定した。また、語り直しの特性とメタ認知特性の関連性を検証するため、参加者は一般メタ記憶質問紙(Kawano, 1999)および日本語版Prospective and Retrospective Memory Questionnaire(Gondo, et al, 2010)に回答した。さらに波及効果を検証するために、参加者は日本語版Herth Hope Scale (大橋, 2002を改定)および日本語版satisfaction with life scale (Sumino, 1994)に回答した。 調査の結果、ネガティブ感情抑制およびポジティブ感情拡張方略による語り直しには、テストへの不安や物忘れといった想起の失敗経験や過去の記憶想起スリップの想起数との正の相関が確認された。一方、認知転換方略による語り直しは、否定的なメタ記憶特性に関与せず,自己の記憶に対する肯定的な認識と正の相関関係が確認された。また、波及効果として、ネガティブ感情制御方略は将来に対する閉塞性を増加させるが、ポジティブ感情拡張方略は将来への希望感を増大させた。認知転換方略では、現在の満足度を高めつつ、将来への希望感を増加させることが明らかとなった。 これらの調査結果から,肯定的感情価を伴う転換的語り直しの使用には、肯定的なメタ記憶の主観的な認識を必要とし,現在の幸福感や未来への肯定的認識を拡大させる可能性が推察される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
複数の転換的語り直しの中から、ポジティブ変化方略・ネガティブ反復方略・ポジティブ反復方略の3つの語り直し特性の基盤となる認知的メカニズムの一端を検証することができた。結論として、ネガティブ反復方略は否定的なメタ認知特性に全て関連しており、このことが波及効果を減衰させうる可能性を示した。ポジティブ反復方略は将来に対する肯定的な認識を高めたが、このような認識は過去の失敗からの認知的な逃避に基づく可能性が示された。ポジティブ変化方略は、肯定的なメタ認知と関連しており,こうした心理的メカニズムが現在の満足感や将来への希望感を高める可能性をしめすことが出来た。 加えて,International Convention of Psychological Science 2019、および、認知心理学会にて成果発表を行うことができた。これらを総合的に判断した結果、研究は概ね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は、これまでの研究を総括することで、転換的語り直しと記憶の概括化との関連性およびその波及効果を統合的に考察する。これらの成果は,7月に開かれるEuropean Congress of Psychologyにて報告する。また,国内学会においてシンポジウムを開き,過去の研究成果と併せて語り直しの効果に関する研究発表を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究構想および経費支出過程で、部分的に調整が必要となる点が生じたため。次年度の実験における人件費および謝金、加えて学会発表旅費で使用する。
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