研究課題/領域番号 |
17K04443
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研究機関 | 目白大学 |
研究代表者 |
高橋 稔 目白大学, 人間学部, 准教授 (10341231)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | エクスポージャー / 認知行動療法 / 視覚的注意 / アイトラッキング / 結果のフィードバック |
研究実績の概要 |
エクスポージャー法は認知行動療法の中でも伝統的で代表的な技法のひとつでありながら、現在でも効果を高めるために様々な検討が重ねられている。たとえば、申請者もこれまで研究テーマとして取り組んできたアクセプタンス&コミットメント・セラピーが展開されたことにより、エクスポージャー法について不快刺激を回避せずに十分に体験すること(アクセプタンスやマインドフルネス)や、(単に症状改善のためではなく)QOLを高めることを目標としたエクスポージャー法であること、不快な体験における言語の役割の再認識する、など新たな観点が提案されるようになった。このように不快刺激に暴露されている最中の機序について、詳細に検討することはエクスポージャー法の効果を高めるため重要である。 本研究では、アイトラッキング装置を用いて、不快刺激にさらされている際の視覚的注意を観察・記録し、その結果を対象者にフィードバックすることによって、その後の注意がどのように変動するかを検討することを目的とする。アイトラッキング装置を用いた研究分野では、視線の移動が視知覚や認知において重要な役割を持つアクティブなプロセスであるととらえている(フィンドレイ、ギルクリスト,2006)。先行研究において、不安症群にみられる注意の特性は、おもにコンピューター課題を介して検討されてきた。しかし、この装置を用いることにより、特別な課題を習得・実施しなくとも、提示された刺激に視覚的注意が向いた時間や回数、継時的な変動の様子を観察することができる。本研究は臨床心理学分野でも始まっているアイトラッキングによる研究であり、その成果を活かし介入期間の短縮や介入途中の脱落予防など、臨床技法の精緻化を目指した研究である。主に本年度は、そのための準備にあてた。たとえば、細かな研究計画の立案、関係する研究者との討論、倫理審査の申請、等を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は申請者が継続的に取り組んでいる研究課題である。その結果、主観的に感じる不快得点が高い時には短いスパンで不快刺激を観察するのに対して、その得点が低くなると1回の視聴時間が延びるということ等を明らかにした。このように主観的な不快さの得点の大きさによって、注視方略が異なっていることが示唆された。この成果は、本研究を進めるにあたり基盤となる重要な内容であり、より安定した結果が必要である。そこで、本研究を進める前に、これまで継続的に行ったものについては、対象者の人数をふやし、改めて結果を積み重ねていた。この結果については、現在集計中であり、発表をしていく予定である。なお、これまで行ってきた研究成果を発表予定であったものは、個人的な事情により発表を取りやめたが、次年度に行われる同じ学会に改めて発表エントリーをしており、現在はその結果を待っている段階にある。 また、先に述べた通り、本研究については、本研究費が採択された後、主要な研究計画を立案し、これについては所属する期間の中にある研究倫理審査委員会に提出した。その過程で、審査者よりいくつかの指摘があり、研究計画の修正を図っている。なお、すでに本研究に関する研究計画は同委員会にいて承認を得ている。 また、当初予定していたアイトラッキング装置の購入は次年度へと先送りをした。その大きな理由は、機器や制御するコンピューターのアップデートに対応するためである。こうした機器は非常に高価でありながら、日々新しい機器等が発売されていく。現在は、研究計画に基づき、以前に購入した装置を用いてデモを作成しているが、予備研究を実際に始める直前にて新しい装置の購入するように計画を変更した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、不快刺激を一定時間提示した際に、観察される視覚的注意の変動(誘導と維持)を記録し、結果を対象者にフィードバックする。そして、対象者がこれをモニタリングすることによって、次回以降の課題に与える影響について検討することを目的とする。このフィードバックするパタンとして、フィードバックする結果をもとに、①標的刺激に向けた注意の総注視時間と総注視回数のフィードバックする群、②総注視時間と総注視回数とともに、その軌跡をフィードバックする群、③フィードバックなし群、とに分けることを現在計画している。今後は、提示する不快刺激の種類と提示時間等について改めて検討することとなる。 また、実施に当たってはこのように対象者はフィードバックをはさみその前後に2回の課題を行うことになること、対象者はランダムに3パタンの実験に振り分けられること、このほか実験前後にはインフォームドコンセントをはじめとした対象者への説明や謝礼の受け渡しなどを行うことになる。そのため対象者データの管理等を含め各種作業が繁雑となることが予想される。また、研究結果の解析についても、刺激別にいくつかのローデーターを抽出したのちに、統計処理をかけていくような過程を踏む予定である。このことを踏まえ、研究課題の円滑な運営、対象者への説明と契約、データ処理等にあたっては、大学生、大学院生、あるいは大学院修了生を研究補助アルバイトとして雇用する計画である。また、得られた成果については、国内外の学会等へ参加・発表し、関連する研究者と議論したり、関係学会等へ研究成果として投稿したりしていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
【理由】アイトラッキング装置は非常に高価でありながら、日々アップデートもしている。本年度は既存の装置を用いてある程度の研究課題を作成し、実際実験を進める段階において新しい装置を購入し、本研究期間内でパソコンを含めたアップデートによる問題を最小限に抑えるように計画を変更した。また、予定していた海外学会での発表も取りやめたために大きな金額を次年度へ持ち越すこととなった。 【使用計画】アイトラッキング装置の購入は今年度を予定している。また、海外学会も今年度すでに再エントリーをしている。また、予定よりも金額が抑えられた場合には、実験補助や結果整理などの作業のための人件費にあてる予定である。
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