研究実績の概要 |
エクスポージャー法は認知行動療法の中でも伝統的で代表的な技法のひとつであり,不安や恐怖に対する心理療法の第一選択肢の一つとしてあげられる。エクスポージャー法は標的刺激に対して脅威の程度が下がるまで十分さらされることが大切であり,“golden rule”とも呼ばれている。しかし,脅威刺激にさらされている際の態度によってもその効果が変わることが知られており,様々な検討がされている(たとえば,Rachman, et al., 2011)が,これに関する一定の結論は得られていない (Bohnlein, et al. 2020)。 これまで申請者は一連の研究を通して,アイトラッキング装置を用いて,エクスポージャー試行中に脅威を高く感じられている際には短時間の注視を繰り返し,低下するにつれて長い時間の注視を行っていくことが明らかにした。今年度は,これまでの結果を応用し,エクスポージャー試行中に不快刺激にさらされている際の視覚的注意について,アイトラッキング装置を用いて観察・記録し、その結果を対象者にフィードバックする条件を設定し、その後の注意がどのように変動するかを検討した。その結果,視覚的注意の様子をフィードバックすることで,注視パタンには変化がなかった治療への態度が変化することがあきらかになった。これまでエクスポージャー時の態度は,心理教育やセラピストからの助言という形でしか提供されず,あいまいであった。アイトラッキング装置では,視覚的注意の観点から量的に測定できるばかりではなく,測定後すぐに対象者自身も確認できるという利点がある。エクスポージャー中の過程がより明らかになれば,効果的な技法として確立さるばかりではなく,治療に向けた動機づけの低さや治療過程途中に脱落などの課題も解決の糸口になることも期待される。
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