研究課題/領域番号 |
17K04454
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
吉畑 博代 上智大学, 言語科学研究科, 教授 (20280208)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 失語症 / 評価法 / 質問紙 |
研究実績の概要 |
平成29年度は,本研究を進めるために,まずは文献研究を実施するとともに,イギリスで,Swinburnら(2004)が開発した失語症検査Comprehensive Aphasia Test(以下,CATと称す)に対する調査研究を行った。 具体的には,CAT開発者であるSwinburn氏や共同研究者であるHoward博士らとのメールでのやりとりにて,CAT作成時の注意点や配慮点を伺うことで,CAT開発過程を詳細に把握した。今後も,必要に応じて,適宜,開発者らと打ち合わせを行う予定である。 またCAT検査そのものを詳細に分析することで,CATで使用されている刺激語に関する心理言語学的変数などを明らかにした。CATでは,心理言語学的変数として,各刺激語の頻度や親密度,心像性などがコントロールされている。我が国では,心理言語学的属性を明らかにした膨大なデータとして,NTTデータベース(天野ら,1999)がある。CAT日本語版での語の選定にあたっては,そのデータベースを利用することを確認した。現在,CAT中のいくつかの下位検査については,予備的に刺激語を選定中であり,かつ選定した語に関してはイラストも作成中である。イラストが完成した後には,イラストを使用したname agreementテスト(名称一致度検査)へと進む予定である。 さらにCATには,失語症当事者に失語症になったことへの思いや抱える問題を調査する質問紙が含まれている。その質問紙には計21項目の質問があり,回答は5段階尺度の選択肢となっている。現在,各質問文の邦訳と選択肢の表現について検討中である。この質問紙に関しても,Swinburn氏らとのやりとりを行い,邦訳にあたっての注意点やアドバイスを頂戴している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
失語症検査CATの日本版を作成することを目的としている。しかし,直訳しても,英語圏と日本とでは,用いる言語や文化的な違いがあるため,日本の失語症者にはなじみがなかったり,適切ではない刺激語があることが見出された。そのような問題への解決にあたり,検討時間を要したり,CAT開発者への問い合わせを行ったりした。そのため,当初の予定よりも進行がやや遅れている状況である。 現在,翻訳に関する文献研究を行ったり,CAT開発者から回答やアドバイスが得られたことにより,方針が定まってきた下位検査もある。そのような下位検査に関しては,name agreementテストの実施など,次の研究段階に進めていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
今後,name agreementテストを実施できる下位検査に関しては,name agreementテスト実施に向けて,早急に,実施手順などの各条件を整備する予定である。また仮名(片仮名含む)と漢字をもつ,日本語特有の問題については,専門家から,さらに助言いただくなどの工夫を行うことによって,日本語版の方針を定める計画である。 失語症当事者への質問紙に関しては,いくつかの邦訳が挙げられている。今後は,その中から邦訳を絞った上で,分かりやすい表現と選択肢に関して,失語症者を対象に,調査する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究進行の遅れにより,研究協力者にデータ収集をお願いするための説明や同意手続きに関する旅費や,研究協力に関する人件費・謝金を十分に使用することが出来なかった。 今後は,研究を進めることでデータ収集が必要となる。データ収集に関する研究協力依頼を行うために,旅費を使用する予定である。また専門的知識の提供者や研究協力者に,人件費や謝金を支出する計画である。
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