本研究では、イギリスで作成された失語症検査Comprehensive Aphasia Test(以下CATと称す)の日本語版作成(以下JCATと称す)を目指した。JCATは、CAT同様に3部構成とした。第1部は認知機能スクリーニング検査、第2部は言語機能検査、第3部は失語症当事者に失語症になってからの生活や言葉に関して「ここ1週間」の気持ちを伺う質問紙である。 本研究の進め方としては、CAT筆頭著者と情報交換を行いながら、CATのadaptationの基本方針(Fyndanisら、2017)に沿った。具体的には、1)JCATで使用する単語として、日本の文化や社会になじみがある語を選出した、2)使用する単語属性は、CATの各下位検査と同様になるようにコントロールした、3)日本語の文字特性にあわせて、3表記(漢字・ひらがな・カタカナ)を用いて、表記妥当性も考慮した、4)イラストは日本の失語症者に違和感がないように、日本のイラストレーターに作画してもらった、5)採点方法も基本的にCATと同様になるようにした。第3部の当事者への質問紙作成にあたっては、翻訳に関する基本方針(稲田、2015)に基づいた。具体的には、1)CATの質問文を日本語に翻訳した後に、逆翻訳を行い、CAT筆頭著者に意見を求めた、2)その意見をもとに、質問文を再修正した、3)日本の失語症者にも意見や感想を聞いて、質問文を完成させた。 以上の段取りを経て、JCAT試案を作成した後に予備調査を実施した。予備調査の対象者は、健常者11名(男性7名、女性4名、平均年齢66.3歳)、失語症者8名(男性4名、女性4名、平均年齢62.1歳)であった。また専門家(言語聴覚士や医師)10名に協力いただき、JCATの感想などを求めた。これらの予備調査の結果を踏まえて、記録用紙やマニュアル、図版の使いやすさなどを修正し、完成させた。
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