2018年度と2019年度に「女性セラピストが自らの妊娠出産を通して心理臨床と向き合うプロセス-女性心理援助職のインタビュー分析-」として学会報告を行い、女性セラピストの出産前後(妊娠中~出産後、復職後)という時期に継続してインタビューの修正版グラウンデッド・セオリー(木下,2017)による質的分析から、セラピストの変化をクライエントとの関係を通して明らかにすることを目指した。2018年度の中間報告として20件の分析結果を経て、2019年度には計39件のインタビューの分析結果を報告した。 最終年度においてはこの2019年度の分析で得られたストーリーラインの内、【Thであることの主体性】という後半部分のカテゴリーに着目し、分析焦点者を「心理支援職への復職に関する自己決定をした出産後の女性セラピスト」、分析テーマは「妊娠出産子育ての中で心理支援職としての復職に関する意思決定を女性セラピストが行うプロセス」として、新たに2件のインタビューを加えて再分析を行った。前回の報告においてM-GTAの方法論上の問題点として指摘されたことを受け、変化が終了したと見られる出産復職後の語りを分析の対象とした。調査協力者は、最終的には妊娠出産子育て中の女性心理援助職(臨床心理士、精神保健福祉士、精神科医)9名とした。最終的なストーリーラインとして、復職後の女性セラピストの【ゆれうごく主体性の調律】により推進された【自らの変化の感知】が臨床場面の中で認識され、「自負感から下りる」、「他者の主体性への感度の高まり」という<他者への構えの変化>や<親としての視点を生かす>という臨床の中で親の視点を直接活用する概念、目標を追うことや先取りせずに,クライエントに必要な時間をかけることを重視した<時間感覚の変化>も生じていた。
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