研究実績の概要 |
研究代表者は不眠と悪夢のアセスメントを利用した調査研究や,日本人大学生に対し,不眠と悪夢に認知行動療法を適用した効果研究を行ってきたが,さらに悪夢の種類と合併精神疾患に対する応用へと発展させていくことを計画している。具体的には,悪夢と記憶を含めた認知機能の関係性に注目し,悪夢の種類別に認知行動療法の技法のパッケージを提案することを最終的な目標としている。 本年度は,加齢に伴う正常な認知機能の低下と認知症の比較,記憶障害を伴う統合失調症の夢の特徴, イメージ鮮明性の高い各種発達障害の夢の特徴,外傷的記憶の過剰な反復想起があるPTSDとその治療プロセス,現実のストレスフルライフイベントに対する認知の歪みが反映される悪夢障害とその治療プロセスを検討した。予定されていた研究4(患者特有の認知的,行動的特徴と夢の中の思考や行動パターンの一致)と研究5(認知症の悪夢の特徴)については,調査を実施し投稿準備中である。研究6(統合失調症の夢の特徴)は事例研究論文として公刊した。 昨年度実施した研究1(悪夢障害の有病率,悪夢症状の体験率)は,思春期から老年期まで6000名以上のデータを収集し,一部を学会発表し,一部を公刊している。同様に研究2(悪夢とその他の精神疾患,心身症状との合併)は精神病質や抑うつなどの変数の他,新たに強迫性障害やアルコール依存症でのデータを追加で収集し,投稿準備中である。研究3(悪夢の分類)は,認知神経心理学研究と精神医学研究をふまえ,類型化する方法について総説論文として公刊した。さらにH31年度以降に予定されていた研究も前倒しで実施している。研究7(自閉症スペクトラムの夢の特徴:事例研究)は,投稿準備中である。また,研究8(PTSDの悪夢の特徴と治療プロセスの事例研究)と研究9(特発性の悪夢の特徴と治療プロセス:事例研究)は既に公刊した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は,研究4(患者特有の認知的,行動的特徴,例えば入眠前と覚醒時で,夢の中の思考や行動パターンなどを,そうでない者)と比較する横断研究)を2つ実施した。このため次の調査研究を進めた。一つはタイプA行動パターンと夢の関係についての研究である。H30年度に学会発表を行い,投稿の準備中である。もう一つは,健常な学生の日中の気分と夢の特性の相関研究をH30年12月~H31年1月に実施した。これから公開のためのデータ分析を行う予定である。その他実施予定であった研究5(認知症の悪夢の特徴(調査研究)はH29年度に学会発表を行い、投稿準備中である。同様に研究6(統合失調症の夢の特徴)は,学会発表を終え,すでに事例研究論文として公刊した(行動科学;松田・川瀬,2018)。 さらに平成31年度に,夢と合併する精神疾患別覚醒時の認知と悪夢の特徴の連続性に関する認知科学的解明のために,平成30年度とは異なる対象で次の事例研究を行う予定を計画していたが,前倒しで平成30年度に既に実施している。 研究7(自閉症スペクトラムの夢の特徴:事例研究)はH30年度に学会発表が終え,投稿準備中である。さらに調査研究に発展させ,通級指導教室に通う知的に障害がないが,自閉症・ADHD・LDの行動特徴を示す児童と通常級の児童の比較の調査を, H30年12月~H31年2月に実施して,データを分析中である。 また,研究8(PTSDの悪夢の特徴と治療プロセスの事例研究)は学会発表が終え,既に学会誌に公刊されている(イメージ心理学研究;松田,2019)。同様に,研究9(特発性の悪夢の特徴と治療プロセス:事例研究)も学会発表が終わり,既に学会誌に公刊されている(ストレスマネジメント研究;川瀬・松田,2018)。
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今後の研究の推進方策 |
順調に研究が進んでいるため,日本人における悪夢障害の実態および特徴の解明(発達的変化,性差)については,アジア諸国(中国や韓国など)との国際比較研究まで,その範囲を拡げることとした。これまで日本の高校生、大学生、30代~90代のデータ,中国の高校生・大学生,韓国の高校生・大学生,30~50代のデータ,在日中国人留学生のデータなど,6000名を超えるデータを収集した。さらに国内国際共同研究を促進するために,Dream Data Bankの立ち上げを共同研究者とともに実行している。 また,悪夢と合併する精神疾患別覚醒時の認知と悪夢の特徴の連続性に関する認知科学的解明も,当初予定していた,認知症,統合失調症,PTSD,自閉症スペクトラム,うつ病に加えて,ADHD,LD,強迫性障害,およびアルコール依存症と悪夢ついても研究を実施することとし,引き続き連携研究者とも情報交換しながら進めていくこととする。
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