本研究は,日本と東アジア諸国における①「学生相談の現状」および②「学生相談カウンセラーの専門性養成における共通点および相違点」を明らかにすることにより,日本の学生相談の課題と今後の発展のための示唆を得ることを目的として行われた。 本年度は,台湾師範大学学生相談室および香港科技大学学生相談室のカウンセラーにインタビュー調査を実施し,両大学における学生相談の体制の特徴および相談活動の状況,さらに学生相談カウンセラーの専門性養成について資料を得た。台湾は東アジア諸国の中で,もっとも早く心理専門職の国家資格ができた国であるが,学生相談室も相談スタッフおよび施設が充実し,また,大学院修了後の研修体制も整備されていた。一方の香港であるが,中国には国家資格はあるものの,実質的には専門職としての資格となっていない状況にある。しかし,香港科技大学は相談スタッフが充実し,施設も充実したものとなっていた。また,大学院修了後の研修体制も整備されていた。両国とも,学生相談に特化した専門性養成のカリキュラムは準備されていないものの,学生相談機関が心理専門職の養成に貢献していることが示唆された。 また,前年度までの研究成果をまとめ,日本心理臨床学会においてポスター発表を行うとともに,学術論文が学生相談研究に掲載された。 3年間にわたる研究の結果,日本は東アジア諸国の中でも,学生相談機関における相談体制と施設および大学院修了後の心理専門職に対する研修システムが未整備であることが明らかになった。今後は,こうした点を視野に入れ,学生相談機関の活動のいっそうの充実をはかる必要があると考えられる。
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