研究課題/領域番号 |
17K04473
|
研究機関 | 関西福祉科学大学 |
研究代表者 |
久保 信代 関西福祉科学大学, 心理科学部, 准教授 (40449848)
|
研究分担者 |
北川 恵 甲南大学, 文学部, 教授 (90309360)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 臨床心理学 / 自閉スペクトラム症 / アタッチメント / 親子関係支援 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、自閉スペクトラム症(ASD)を抱える子どもと養育者のための、アタッチメントに基づいた新しい支援方法を確立することである。ASD圏の診断を持つ、あるいはその傾向を持つ幼児期から学童期までの子どもの養育者で、養育困難を訴える母親を対象に、アタッチメント理論に基づき開発された「安心感の輪」子育てプログラム(COS-P)をグループ形式で実施し、効果検証をプログラム前後に行うことを予定している。 平成29年度は、4組の親子が本研究に参加した。プログラム実施前に親子が抱える課題の仮説的理解を得た上で個別の支援計画を検討するために、ストレンジ・シチュエーション法による親子の相互作用の観察、およびCOSインタビューを行い、ASD児の分かりにくいアタッチメント行動や母親の反応についての実態を把握し、子どもからのアタッチメント欲求の受容を妨げる母親側の心理的課題について検討した。その後、COS-P(1.5時間x 8回)を実施した。効果検証は、事例検討による個別の具体的効果の検討、および(a) 介入前、(b) 終了後、(c) 終了6ヶ月後、(d)終了12カ月後に実施する質問紙/聞き取り調査の2つの方法を予定しており、現時点で、(a)と(b)の分析が完了している。COS-P実施中、母親自身の被養育体験に関する内省的な語りを通して、わが子との関係の変容過程が観察された。更に、こうした変化は質問紙調査の結果において母親の精神安定度や養育の効力感の改善に反映されていた。このことは、ASD児の養育という困難な状況下、母親の子ども時代のアタッチメントパターンによる不安反応が現在の我が子との関係の中で誘起されやすいこと、それが親子の関係性の問題要因となる可能性が考えられ、ASD特性とアタッチメントを考慮した親子関係支援の有効性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度に実施を計画していた4組分の臨床データを得ることができた。ただし1組は子どもの年齢が想定対象年齢よりも低かったため(2歳)、統計処理には含めないことにしたが、低年齢のASD児親子に関する貴重な臨床例として有意義なデータを得ることができた。研究の主目的であるプログラム効果検証のために必要なサンプルサイズ(20組)を揃えるため、平成30年度は計画を変更し定員を1組増やして5組で実施する。 先行して実施していた12ケースを加えて、予定していた全ケース数20組のうち、現時点で15組のデータが得られたことになる(75%)。
|
今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、平成29年度と同様の計画に基づき、新規5ケース分の臨床データを得る。加えて、平成29年度の(c) 介入終了6ヶ月後、(d)介入終了12カ月後における質問紙/聞き取り調査を実施する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
旅費については、研究分担者との打ち合わせや国内学会参加など国内旅行について、可能な限り日帰りとしたため宿泊費の支出が少なく、当初の予定よりも経費を要さなかった。人件費については、当初予定した人数の補助要員を採用することができなかったため1名で対応することとなり、当初の予定よりも経費を要さなかった。物品費については、パソコンは既存のものが使用でき、ビデオカメラは安価に購入できたので、当初の予定より経費を要さなかった。 平成30年度以降は、当該年度実施のプログラムに加え、前年度の実施プログラムのフォローアップに関するデータの集計解析も平行して行うため、補助要員を増員する必要がある。今後は国際学会参加を予定しているため、旅費の出費が増えると予想される。また、国際学会での発表資料作成および国際誌への原著論文投稿に際し、参加費や投稿料、英文校閲のための経費が当初の予想以上にかかることが判った。 そこで平成29年度に繰り越しとなった助成金は、主に旅費、データ整理のための謝金、旅費、研究成果発表費用、および英文校閲費などに使用を計画している。
|