研究課題/領域番号 |
17K04475
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研究機関 | 福山大学 |
研究代表者 |
平 伸二 福山大学, 人間文化学部, 教授 (30330731)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 国際テロ / 隠匿情報検査 / 事象関連電位 / P300 / 模擬テロ攻撃シナリオ |
研究実績の概要 |
国際テロ及び組織犯罪の未然防止に向けた,脳波による探索型情報検出の確立を図るため, 6つの研究を3年間で行い,その成果を国内外の研究者と共有して,国際的なテロ対策において研究者ネットワークの構築も行っている。2017年度は,標準的な3刺激オッドボールパラダイムでの検討(研究1),刺激呈示のみのpassiveパラダイムによる検討(研究2)を行う予定であった。しかし,研究1で視覚・聴覚同時呈示課題を用いて,模擬テロ攻撃シナリオ課題によるCITを実施したが,模擬テロ攻撃シナリオで設定した「都市名(東京)」「施設名(雷門)」「決行日(1月1日)」に対し,20名の実験協力者によるデータを取得して解析したが,いずれの項目でも有意なP300振幅の増大が認められず検出成功に至らなかった。この研究に関しては模擬テロシナリオ課題が重要であるため,研究2の実施を見送って2018年5月の第36回日本生理心理学会で発表して,他の研究者の意見も取り入れることとした。 研究の先行研究である,オランダのマーストリヒト大学のMeijer et al.(2010)は,同様の模擬テロ攻撃シナリオ課題を用い,CITで攻撃日,攻撃場所(都市名),標的対象(店舗名)を皮膚電気活動により検討し,その有効性を報告している。7月1日(土)から9月30日(土)までの3ヶ月間,Dr. Meijer のもとでリサーチアシスタントをしているRobin Ortheyを受け入れた。また,視線計測による既知顔のCITを検討中のイギリスのスターリング大学のDr. Millenも8月から9月の間の20日間受け入れ, 8月26日(土)・27日(日)に福山大学でCIT研究会を開催し,広島修道大学・慶應義塾大学の研究者,広島県・兵庫県・静岡県警察の科学捜査研究所のポリグラフ検査者も参加した。このように,国際的な研究者ネットワーク構築は進んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2017年度に予定していたもう一つの研究は,研究1と同じ方法で呈示刺激を注視させるだけのpassiveパラダイムでの検討であったが,模擬テロ攻撃シナリオ課題を改良して実施する準備を整えている。また,研究3は外国人にも適用可能な写真画像呈示によるpassiveパラダイムによる検討を行う。この際にスターリング大学のDr. Millenとも共同での研究遂行を考えている。昨年度来日した際に共同での研究に合意し,Dr. Millen はイギリスのEconomic and Social Research Councilの助成金に応募して4月に採択された。研究課題は,” Identifying markers of concealed face recognition”(「隠蔽された顔認識マーカーの特定」)であり,本研究と同様の内容を視線計測で実施する。研究期間は2018年から2020年までであり,コンサルタントとして本研究知見を必要に応じて提供し,研究完了の2020年の夏にスターリング大学でのワークショップに招かれる予定である。 また,これまでの研究成果は,日本心理学会第82回大会のシンポジウム「テロリズムに対して心理学は何ができるのか」において話題提供する予定である。そして,ウィーンで開催された57th Society for Psychophysiological Research Annual Meeting(2017年10月)において,Dr. Meijerと国際学会でもシンポジウムを実施する方向で合意している。なお,昨年度実施した福山大学でのCIT研究会は,福山大学犯罪心理学研究室のホームページに”Report of CIT meeting in Fukuyama 2017”として公開している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに実施した研究1の模擬テロシナリオ課題を見直し,passiveパラダイムでの研究2を実施する。次に,研究3として外国人にも適用可能な写真画像呈示によるpassiveパラダイムによる検討を行う。裁決刺激は研究2で呈示する標的対象(雷門)とする。写真画像は母国語の違いに左右されないメリットを持つと考えられる。模擬テロ攻撃シナリオ課題による研究1-3でCITの妥当性を確認した後,研究4からは検査時点でテロの計画が把握できていないケースを想定した,探索型CITによる検討を実施する。犯罪捜査においても凶器の種類,死体の遺棄場所の推定等で使用されることがあり,searching CITと呼ばれ(平,2005;Verschuere et al., 2011),捜査側が知り得ない事実を犯人の記憶から引き出す方法として使用されている。2018年度では,実験参加者側に模擬テロ攻撃シナリオを作成してもらい,テロの実行日,場所,標的となる施設を推定する方法を確立する(研究4)。 また,当初は2018年の国際学会で「国際テロの未然防止に向けた心理学の貢献」と題して,シンポジウムを実施する予定であったが,本研究の進捗状況,スターリング大学のDr. Millenの研究進展を待って,2019年に実施する方向で検討中である。このシンポジウムには,Robin Orthey,Dr. Meijer,Dr. Millen に加え,CIT研究の世界的権威であるDr. Ben-Shakhar(ヘブライ大学名誉教授),Dr. Rosenfeld(ノースウェスタン大学教授),Dr. Verschuere(アムステルダム大学准教授)と協議中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由は,実験データ解析用にデスクトップパソコンを購入予定であったが,8月26日(土)・27日(日)に福山大学でCIT研究会を開催した際に,兵庫県・静岡県警察の科学捜査研究所研究員2名を招聘するための旅費を優先したため,より高額のデスクトップパソコンの購入を見送ったために,115,687円の残額が生じた。実験データの解析には,研究室所有の従来のデスクトップパソコンを使用した。 使用計画は,2018年度に予定していた国際学会でのシンポジウムを2019年度に延期したため,国内の日本心理学会第82回大会(東北大学)のシンポジウム「テロリズムに対して心理学は何ができるのか」において話題提供する予定であり,この発表に伴う旅費,さらには保留していたデスクトップパソコンの購入経費とする。
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備考 |
8月26日(土)・27日(日)に福山大学でCIT研究会を開催し,広島修道大学・慶應義塾大学の研究者,広島県・兵庫県・静岡県警察の科学捜査研究所の研究員も参加した。また,特別研究員として滞在中のオランダのMaastricht UniversityのRobin Orthey,イギリスのUniversity of StirlingのDr. Millenも発表を行い,英文の報告書としてまとめて公開した。
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