本研究では、DVに関する世間の常識的見解や地方自治体の啓発活動の実態調査を通して、一般向け及び援助者向けの効果的なDV啓発活動を提案することを目的としている。研究期間全体を通じて実施した研究としては、青年のDVに関する常識的見解についての検討やDV被害者に関わった経験を持つ地方自治体職員への質問紙調査によるDVにまつわるDV支援者の常識的見解の把握が挙げられる。また、DV被害経験者を対象に、DV被害者支援を専門としない援助者との関わりについての経験のインタビュー調査を行った。 2022年度は、過去にアルコール依存症者である配偶者からDV被害を受けていたDV被害経験者が、アルコール依存症者の援助者と関わった体験についての語りのデータを質的に分析し、以下の考察を行った。 DV被害経験者が自らのDV被害について相談するといったかたちではなく、アルコール依存症者の配偶者として専門家と関わった経験において、DV被害経験者は専門家から自身の被害体験を共感されるのではなく、アルコール依存症者の家族としてアルコール依存症者への支援を担う役割を期待されることがあった。また、子どもからアルコール依存症者の夫の被害者というよりも、親としてアルコール依存症者の夫と同様に批判的にとらえられてきたとの認識があった。さらに、問題の背景として多世代にわたる性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)があることが示唆された。
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