研究課題/領域番号 |
17K04480
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研究機関 | 鹿児島純心女子大学 |
研究代表者 |
餅原 尚子 鹿児島純心女子大学, 人間教育学部, 教授 (70352474)
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研究分担者 |
久留 一郎 鹿児島純心女子大学, 人間科学研究科, 研究員 (40024004)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | PTSD(心的外傷後ストレス障害) / 発達障害 / 犯罪被害者 / 体験距離 / 体験強度 |
研究実績の概要 |
1)令和元年5月に、著書(研究代表者・研究分担者共著)「臨床心理学―生きる意味の確立と心理支援―」出版し(同年10月には増刷)、大学等で教科書として採用された。 2)性被害に遭った過去のケースのロールシャッハ反応により、その反応特徴を見出し、被害者が出来事に触れることなくアセスメントできる指標を見出すことができ、その成果を論文投稿した。新規ケースについては、研究協力機関として県警察本部や犯罪被害者支援センターとの連携により、PTSD症状を呈した事例が7ケースあったが、発達障害を伴うケースはなかった。過去の事例であったが、発達障害児が性被害に遭い、症状が深刻化した事例を九州学校保健学会で発表し、学校医等への啓発をすることができた。 3)職場で飼育していた猛獣により死亡した事例について、その職員99名に対し、事故から1年半、アセスメントと同時に支援を試みた。昨年度の状況では、体験距離の近さ(死亡した職員との対人的距離の近い者、同じ業務をしていた者)、体験強度の強さ(猛獣の捕獲作業にあたった者)がトラウマ反応(PTSD)に影響を及ぼしていることが見いだされた。また、体験距離や体験強度は低いものの、発達障害を疑う職員の心無い(空気の読めない)言動により、不安定になった職員もみられた。1年を経過し、職場内の雰囲気も改善され、平穏な状況に回復するに至った。 4)これまでの研究成果をもって、令和2年3月に、ロンドン大学精神医学研究所(Michael Rutter Center/Center for anxiety disorders & trauma,Institute of Psychiatry,Psychology & Neuroscience,King’s College London)等での学術交流を予定していたが、COVID-19の感染拡大に伴い、訪欧を延期した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)事件・事故・災害は発達障害に対してどのような影響を及ぼすのか、という研究の目的に対して、発達障害があるが故に、犯罪の被害に巻き込まれ、さらにその後の症状が重篤化(悲惨な出来事を直截的に認知)し、長期化(固執)する危険性が見いだされた。さらに、災害派遣者(国家公務員)で、発達障害のある者のトラウマ症状について、担当臨床心理士よりインタビューを得ることができたものの、他の機関の状況を予備調査したが、発達障害のアセスメントまでに至っていないことがわかった。 2)著書の出版(久留一郎・餅原尚子著『臨床心理学―「生きる意味の確立」と心理支援―』八千代出版)および、研究成果の一部を学会発表、論文投稿することができた。 3)これまでの研究成果をもって、令和2年3月に、ロンドン大学精神医学研究所(Michael Rutter Center~South London and Maudsley NHS Foundation Trust/Center for anxiety disorders & trauma,Institute of Psychiatry,Psychology & Neuroscience,King’s College London)等での学術交流を予定していたが、COVID-19の感染拡大に伴い、訪欧を延期せざるを得なかった。
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今後の研究の推進方策 |
1)前年度に続き、過去の事例、新規の事例について、PTSD症状を呈した被害者等を健常者と発達障害者等(疑いを含む)に分類し、実施した臨床心理査定の結果と臨床心理面接、および家族への面接記録等の分析結果をもとにトラウマを被りやすい要因、トラウマ発症につながりやすい要因等を分析し、その結果をもとにガイドライン、あるいはチェックリスト等を作成し、予防や症状の軽減をはかる。2)警察本部、犯罪被害者支援センター以外にもフィールドを広げ、被害者支援に携わっている臨床心理士等に対し、発達障害(疑いを含む)のある被害者について、インタビューを継続する。3)支援する側に発達障害がある場合、例えば警本部被害者支援担当者、自衛隊職員(研究分担者所属の客員研究員)、犯罪被害者支援センター・ボランティア相談員等にどのような問題と課題があるのか 、「支援者支援」のありようを検討する。4)これまでの科学研究費(平成15年~17年、平成20年~22年、平成23年~25年、平成26年~28年)による欧州との学術交流をベースにして令和2年3月に、ロンドン大学精神医学研究所(Michael Rutter Center/Center for anxiety disorders & trauma,Institute of Psychiatry,Psychology & Neuroscience,King’s College London)等での学術交流を予定していたが、COVID-19の感染拡大に伴い、訪欧を延期せざるを得なかった。令和2年度に視察、情報交換を行い、本研究結果を踏まえた学術交流、調査等を実施する。5)以上の結果から、発達障害のある被害者・支援者について、配慮すべき点(予防、支援の工夫、合理的配慮等)について考察し、実効性のある被害者・支援者支援システムの構築を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
これまでの研究成果をもって、令和2年3月に、ロンドン大学精神医学研究所(Michael Rutter Centre~SLaM:South London and Maudsley NHS Foundation Trust/Center for anxiety disorders & trauma,Institute of Psychiatry,Psychology & Neuroscience(IoPPN),King’s College London)等での学術交流を予定していたが、COVID-19の感染拡大に伴い、訪欧を延期せざるを得なかった。キャンセル料を伴い、予算が減額となってしまったが、可能な限りで実現できるよう計画をすすめていく予定である。
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