研究課題/領域番号 |
17K04484
|
研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
小久保 奈緒美 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, トランスレーショナル・メディカルセンター, 研究生 (40392451)
|
研究分担者 |
吉本 定伸 東京工業高等専門学校, 情報工学科, 教授 (00321406)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 高齢者 / 認知症予防 / 遠隔診療 / 服薬支援 / 認知行動療法 / 非接触バイタルセンシング / アプリケーション / ユーザー・エクスペリエンス |
研究実績の概要 |
認知症の予防と早期発見、進行鈍化は、超高齢社会を迎えたわが国の重要課題である。しかし、認知症予防に対し薬物療法の効果は立証されておらず、生活習慣の改善や認知機能トレーニングなど非薬物療法の有効性に関する検証が求められている(Boltz et al. 2016)。申請者は、既に認知機能評価・トレーニング用アプリケーション、User Experience-Trail Making Test: UX-TMTを開発(小久保ら、2015)、現在臨床応用を進めている(Kokubo et al. 2018)。 本研究では認知症を予防する新たな遠隔医療・医師―患者間プログラム『i-CAN』の開発と応用を進めている。本研究の目的は、(1)認知症を予防する新たな遠隔医療・医師-患者間プログラム『i-CAN』の開発、(2)パイロット試験の実施:『i-CAN』実施可能性の検討と運用ガイドライン策定、(3)無作為化比較試験の実施:『i-CAN』の有効性の検討の3点である。 平成30年度の研究では、29年度に開発を進めていた認知症予防プログラムとアプリケーションについて、患者と家族、認知症医療従事者らのユーザー体験を参考に機能の選択と統合を行った。特に、新たに取り組んだi-CANアプリケーション服薬支援機能の実装や、MCI患者を対象とした不安とうつの認知行動療法プログラムの検討では、i-CANプログラムの実施可能性を確認出来た。また、i-CANプログラムとアプリケーションが、認知症予防に限らず発達研究や介入効果研究等、幅広い目的に活用出来、応用可能性が高いことが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、プログラムのコンセプトを引き継ぎつつ、開発を行っているシステムを一新し、ユーザー・エクスペリエンス(ユーザー体験)をベースに課題の改善と計画の見直しを行った。現在までの進捗状況は概ね以下の通りである。 (1)各機能の統合:アプリケーションに服薬支援機能を新たに実装し、医療機関受診と服薬、認知機能トレーニングの履歴と予定が同時に閲覧出来るよう機能を統合し、基本的な完成度は大きく向上した。(2)使用感調査と開発へのフィードバック:ユーザーおよび専門家として患者、家族、神経心理学者ならびに認知症専門医等に聞き取りを行い、多くの示唆に富む意見や好意的な感想を得た。そのため、結果をアプリケーション開発にフィードバックし、優先すべき課題の選択と集中へ活用した。(3)実施可能性と有効性の向上:アプリケーションを医療従事者用と患者・家族用で独立させたことにより、実用化に向けて大きな進展となった。また、多様なユーザーを想定して認知機能トレーニングゲームのバリエーションを増やし、認知機能の側面から想定するアプリケーションユーザー層を広げた。(4)認知症予防のための認知行動療法プログラム:高齢者の不安とうつに対する認知行動療法プログラムを応用したMCI患者向けのプログラム試案を作成し、運用と検討を行ったところ、結果は概ね良好であった。(5)プロジェクト・マネージメント:研究開発のプロセスにおいて生じる様々な事象、特に計画の修正を要する事案について、定期的に進捗管理を行い、計画の見直しと実行によってプロジェクト全体の質を確保した。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度は、研究体制の見直しと再構築を行い、再度プログラム内容を検証し、基本プログラムの完成を目指す。特に、i-CANアプリケーションとi-CAN認知症予防プログラムが適切に運用出来るよう、随時協力依頼を行い、研究の安全かつ円滑な遂行と深度ある開発の推進を図る。また、今年度も得られた研究成果をタイムリーに学術誌や学会等で発表する予定である。 一方、昨年度の使用感調査から、i-CANアプリケーションについては認知症予防に限らず、他の用途への応用に期待が高いことが分かった。また、ICT機器の性能向上はめざましく、最近ではモバイル技術を活用した新しいデータに関心が高まっている(Koo BM et al. 2019)。そのため、今年度の実施にあたっては新たな機器を導入し、ユーザーの負担軽減を図ると同時に開発しているアプリケーションとプログラムの精度向上を図る予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初計画で予定していた海外先行事例調査について、特にエビデンスに基づく認知症予防プログラムの応用と日本語版作成は、国際学会参加と遠隔会議(オンラインミーティング)の活用が効率的であることが示唆された。そのため、現在は先行事例におけるプログラムの翻訳を進めると同時に、オンラインミーティングの準備を進めている。 また、平成30年度は研究代表者の本務先変更と研究実施体制変更と再構築の必要性が生じた為、研究計画の見直しと支出計画の再編を行った。 その結果、物品購入とパイロットスタディの開始時期を一部変更した為、平成31年度分と合わせてに物品購入と海外先行事例調査費、旅費、学会参加費、ならびに人件費・謝金等の研究推進費に充てる予定である。
|