課題を並列に行うマルチタスク環境下では,注意の分割,課題の切り替え,プランニングなどの複雑な認知制御が必要となる。マルチタスクとは、文字通り複数の課題を同時に遂行する事態を指す。我々の持つ認知制御システムの処理容量には限界があるため,処理すべき情報を選択し,不要な情報を抑制する必要がある。しかし,課題に非関連で不要な情報が処理されてしまうと標的課題遂行が妨害される可能性がある。先行研究では,認知処理のボトルネック,認知制御プロセスの柔軟性などがマルチタスクにおける課題成績の低下と関係する事が指摘されている。また,近年では課題非関連妨害刺激に対する注意制御と感情や動機などの内的状態,個人特性との関係に注目が集まっていることから,注意制御と個人差や感情との関連の検討は重要である。平成29年度・30年度は注意制御に関する心理実験の実施,分析と脳波研究に着手した。特に視覚課題の認知負荷を操作し、課題非関連聴覚刺激への気付きについて検討した結果、ワーキングメモリ容量の個人差が気付きと相関があり、ワーキングメモリ容量の高さが気付きの失敗を予測することが示された。令和元年度は、過年度の実験を発展させ,課題非関連聴覚刺激の呈示を予告し、十分な学習フェイズを設けた上で、非注意性盲目(inattentional deafness)のパラダイムを用いた検討を行った。さらに令和元年度は音刺激の種類、呈示頻度を操作して、ワーキングメモリ上に表象される音刺激の種類が増加することによる聞き落としへの影響を調べた。また,令和2年度には注意制御に関する脳波の研究論文を発表すると共に(川島・松本,2020 妨害刺激の抑制に無視手がかりが与える影響,認知心理学研究),心理学実験データの解析を行った(松本・石崎,2020;松本,2020)。さらに妨害刺激の顕著性についても検討を行った(馬・松本,2023)。
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