研究課題/領域番号 |
17K04493
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
富原 一哉 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 教授 (00272146)
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研究分担者 |
小川 園子 筑波大学, 人間系, 教授 (50396610)
菅野 康太 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 准教授 (80722470) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | エストロゲン / 恐怖学習 / マウス / 産後うつ / PTSD / 情動 / 物体再認学習 / 行動神経内分泌 |
研究実績の概要 |
女性は男性に比べて,抑うつや不安神経症といった情動障害に罹患しやすく,また妊娠期や更年期などに重篤化しやすいため,その発症と症状維持にはエストロゲンなどの性腺ホルモンが大きく関与していると考えられている。我々はこれまで,卵巣切除雌マウスに比較的高用量のエストロゲンを慢性投与した場合には,不安関連行動が増大し,恐怖学習が促進することを明らかとした。一方エストロゲンは,海馬神経細胞樹状突起スパインの増加などを介して,学習・記憶にも影響を及ぼすことが確認されている。したがって,少なくとも高用量エストロゲン慢性投与による恐怖学習の促進は,その基盤となる情動反応性ではなく,全般的な学習機能の向上を反映している可能性がある。そこで,本研究では,嫌悪性刺激を用いない学習である物体再認テストにおいても,高用量エストロゲン慢性投与により学習成績が向上するかを検討することとした。 その結果,物体再認テストのテスト試行における新規物体へのにおい嗅ぎ時間や新規物体探索率は,統制群に比べてエストロゲンを投与した2群の方がやや高かったものの,その差は統計には有意ではなかった。一方,2回目の順化試行を基準として,テスト試行での新規物体に対するにおい嗅ぎ増加率を求めたところ,高用量群では有意に増加し,低用量群でも増加する傾向が示された。一方統制群では,増加率は0と有意に異ならなかった。したがって,エストロゲンを投与した群でのみ,先行する順化試行での物体学習が行われていたと言える。 エストロゲンを投与した群でのみ物体学習が確認されたことから,エストロゲンの慢性投与はその用量に関わらず非嫌悪性の学習を促進すると考えられる。一方,嫌悪性の学習である恐怖学習に関しては,比較的高用量のエストロゲンを慢性投与した場合にのみその亢進が顕著であることから,一般的な学習の促進とは異なるメカニズムを考慮する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
アデノ随伴ウイルスを使ったERノックダウンの手法の確立に時間がかかり,また行動実験装置の故障により,研究の進行状況は遅れ気味である。今後は,検討する脳部位の厳選,関連神経伝達物質の定量分析の省略等で対応するとともに,研究手法の変更も視野に入れて計画を精査・検討する。
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今後の研究の推進方策 |
現在,この高用量estradiol慢性投与による恐怖学習亢進の脳神経メカニズムを明らかとするため,ERαのsiRNA遺伝子を組み込んだアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)を用いたRNA干渉法によるERαの脳部位特異的発現阻害を行い,エストロゲン長期慢性投与後の行動観察を行っている。しかしながら,ウイルス投与処置そのものが被験体マウスの不安・恐怖等の情動関連行動に大きく影響を与えることが判明したため,今後投与方法の再検討を行っていく。 また,これと並行して,行動レベルから高用量estradiol慢性投与による恐怖学習亢進のメカニズムを探るため,恐怖学習のみではなく,非嫌悪性の学習課題など様々な行動測定技法を用いて,高用量estradiol慢性投与メスマウスの行動特性を多面的に評価することとした。
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