研究課題
女性は男性に比べて,抑うつや不安神経症といった情動障害に罹患しやすく,また妊娠期や更年期などに重篤化しやすいため,その発症と症状維持にはエストロゲンなどの性腺ホルモンが大きく関与していると考えられている。昨年度の研究により,扁桃体内側核のエストロゲン受容体ERα遺伝子発現抑制は,メスマウスの情動関連行動に有意な差をもたらさないが,ERβ遺伝子発現抑制は,手がかり恐怖条件づけ課題において高い条件性恐怖反応を引き起こすことなどが示された。そこで今年度は,視床下部の室傍核のERαがエストロゲンによる不安亢進に及ぼす役割を明らかとするため,ERαのmRNAに相補的な塩基配列を組み込んだアデノ随伴ウイルス(AAV)の投与によって室傍核のERαの発現を阻害し,その後の高用量エストロゲン投与による不安亢進作用に対する影響を検討した。その結果,高用量エストロゲン処置による不安や恐怖の亢進に対しては,ERα遺伝子発現抑制の効果は示されなかったが,低用量エストロゲン処置の情動関連行動抑制効果は,視床下部の室傍核のERα遺伝子発現抑制によって減弱される傾向にあった。したがって,低用量エストロゲン処置の情動関連行動抑制効果には,これまで確認されてきたERβだけでなく,ERαも関与する可能性が示唆された。これまでの研究結果を総合して,扁桃体内側核や視床下部室傍核などの単独部位のERα遺伝子発現抑制では,高用量エストロゲン処置による情動関連行動亢進効果に影響が示されなかったことから,この効果は,これら以外の脳部位のERαか,複数の脳部位の相互作用によってもたらされるものと推察される。
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Neuroscience
巻: 438 ページ: 182-197
10.1016/J.NEUROSCIENCE.2020.04.047