研究課題/領域番号 |
17K04495
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
遠藤 光男 琉球大学, 法文学部, 教授 (90185166)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ヒト検出 / ネコ検出 / 自然の情景 |
研究実績の概要 |
ヒトの存在に気づく過程,すなわち,ヒトを検出する過程に関する認知特性を明らかにするのが本研究の目的である。これまで,人工的な刺激配列においてチョウを検出する課題で無関連刺激として顔を提示するとチョウの検出が遅くなることなどが報告され,顔やヒトへの自動的かつ強制的な注意の捕捉が生じることが示唆されてきた。今年度はこの現象が自然の景観の中でも生じるのかを検討することを目的とした。 まず,24の自然の情景にヒトかネコが存在する刺激と,両方とも存在する刺激,両方とも存在しない刺激の4種類を作成した。そして,これらの刺激を実験参加者にランダムに提示し,半数にはヒトがいるかどうかの判断を,残りの半数にはネコがいるかどうかの判断をなるべく早く正確に行うことを課した。その際,単に反応の正確さや反応に要する時間のみを計測するのではなく,課題遂行時の眼球運動も計測し,情景探索時の詳細な分析を試みた。 その結果,反応時間の分析では,ヒトの検出とネコの検出に要する時間には差がなく,ヒト検出に対するネコ刺激の妨害やその逆も認められなかった。しかし,人がいないと判断することはネコがいないと判断するよりも一貫して早かった。眼球運動の分析では,ヒトを検出するまでの凝視回数やヒトがいないと判断するまでの凝視回数よりネコを検出するまでやネコがいないと判断するまでの凝視回数の方が有意に多いことが示され,ネコの方が判断が難しいことが示された。また,ヒト検出の場合,刺激内にネコがいてもヒトを凝視する前にネコを凝視することは4%程度しかなかったが,ネコ検出の場合,刺激内にヒトがいるとネコを凝視する前に20%程度ヒトを凝視してしまうことが示され,ヒトが強制的に注視されてしまうことが多いことが示された。したがって,自然の情景の中でもヒトの存在が注意を引きつけることが確かめられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
まず,学内の併任管理職の業務が(地域連携推進機構生涯学習推進部門長,琉大コミュニティキャンパス事業本部長),想定したものより著しく多く,本研究のエフォート率が当初予定した20%に届かず,10%程度にとどまってしまったことと,それを補うものとして想定していた大学院生も研究テーマが異なり,十分な補助が得られなかったことが今年度の進捗状況の原因となる。 加えて,購入した眼球運動測定装置の操作の習熟に時間を要したことと,本装置が想定以上に精度が悪く,本装置の調整を購入元の技術者に検討してもらったことも今年度の進捗状況に大きな影響を与えた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の進捗状況を補うために,エフォート率をあげ,研究が順調に進むように調整を行う。今年度の進捗を遅らせた一つの原因となった眼球運動測定装置の問題について業者と連携をとり,改善に取り組む。また,必要な場合には代替装置の入手も検討する。 研究自体の推進方策としては,今年度の研究実績を生かすために,まず,ヒトの検出を自動車などのヒトより大きな刺激の検出と比較し,今回の結果が刺激の大きさだけでは説明できないことやヒトが注意を引きつける条件の解明を行う。 その後は,当初の研究計画に沿って,研究を推進していく。すなわち,今年度はヒト検出に対する背景の効果を自動車や動物の検出への影響と比較する。背景の文脈が物体の検出に影響を与えることが知られているが,ヒトとその他の物体の検出で背景文脈の効果に違いがあるのかについてはこれまで検討されていない。ヒト,自動車,動物などを検出する際に頻繁に凝視される領域にそれらが呈示されたときとそうでない領域に呈示されたときの検出の違いを比較する。具体的には,平成29年度,及び平成30年度初期の実験結果のうち,ヒト,自動車,ネコが存在しなかったシーンへの眼球運動をもとにして背景文脈から予想される場所にターゲットが位置していた場合とそうでない場所に呈示された場合のそれぞれの検出に及ぼす影響を検討する。 平成31年度は,ヒト検出の手がかりとしての姿勢や手足のポーズの影響を検討する。特にヒト検出が困難になる状況,すなわち,遠距離からのヒト検出において姿勢(直立,座位)や手足のポーズなどの影響を検討する。その中で,ヒトの典型的な景観を特定することや自分の存在を遠くの観察者に知って,もらうために行う典型的な行動としての大きく手を振る行動が有効なのかどうかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
前述のように,学内併任管理職の業務により研究のために想定したエフォート率が達成できなかったことと,購入した眼球運動装置の不具合などのために研究の進展が計画より遅れてしまったことが,次年度使用額が生じた主な理由となる。 平成30年度は繰り越し分と当該年度分の助成金によって,眼球運動測定装置の測定精度を高めるためにオプション装置(単眼測定から両眼測定への変更)と実験装置として用いるモニター等の購入を行うことと,研究成果の内外での発表等の旅費の支出,実験遂行のための謝金の支出などを行う予定である。
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