ヒトの存在に気づく過程の一般的特性を明らかにするのが本研究の目的である。昨年までの研究においては,自然の景観の中でのヒトとネコの検出とヒトと自動車の検出の比較を行った。その結果,どちらの比較においても,ネコ,自動車の検出課題の時,課題無関連刺激のヒトにより多く注視する傾向が認められ,自然の景観の中で課題無関連であってもヒトは注意を捕捉する傾向があることが示唆された。 今年度は,ヒト検出に景観の文脈がどんな影響を与えるのか確かめることと,遠景の中からヒトを検出するとき,ヒトの姿勢が影響するのか検討することを試みた。 前者の研究では,ヒト,及び,自動車が自然な文脈に存在する刺激と不自然な文脈に存在する刺激(例えば,空中など)を作成し,実験参加者にヒトがいるかどうかか自動車がいるかどうかの判断を課した。その結果,ヒト,自動車共に自然な文脈に位置する方が不自然な文脈よりもより速く検出されることと,文脈の効果はヒト,自動車ともほぼ同じ程度の強さであることが示された。 後者の研究では,同じ景観の中で,手を上げているヒトと手を上げず直立しているヒトが存在する刺激を作成し,それらの検出過程を比較した。その際,遠方にいるヒトを検出する状態に近い条件を作るために高空間周波数成分をカットした刺激を用いた。これは,観察距離が遠くなると視覚パターンの細部の情報を伝える高空間周波数成分の情報が把握できなくなるためである。実験参加者には最も多くの高空間周波数をカットした刺激から徐々にカットする成分を減らした刺激を連続的に呈示し,ヒトの存在に気づく閾値を測定した。その結果,ヒトの大きさは,ヒト検出の閾値に影響することが示されたが,手の上げ下げは検出の閾値に影響しなかった。したがって,遠方の人に自分の存在を気づいてもらいたいとき,単に手を上げるだけではそれほど効果がないことが示唆された。
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