研究実績の概要 |
長時間観察による順応で生起する一種の残効と考えられていた円図形の変形錯視と同様の効果が,円図形とそのグラデーション図形を交替させるフラッシュ呈示により,短時間で生起することを発見した。本研究では,この図形変形錯視(ポリゴン化効果)の生起機序の解明を目的とし,ポリゴン化効果が先行研究 (Ito, 2012; Khuu, McGraw,& Badcock, 2002)の長時間観察での順応にもとづく図形変形錯視と同じメカニズムに依存するか否かについて,潜時,誘導パタンの種類,生起部位の観点から実験的に明らかにすると同時に,図形の知覚,特に円がどのような要素の組み合わせで知覚されているのかについて,そのメカニズムを再考する。今年度は,静止円を凝視させた場合とグラデーション図形との交替呈示を観察させた場合の,円図形変形錯視の生起潜時を比較する研究を実施した。 ポリゴン化効果では誘導刺激と検査刺激が一体となるため,刺激呈示開始から図形変形が開始する(誘導される)までの時間(潜時)を従属変数として測定した。独立変数は円図形とグラデーション図形の交替周波数で,0 (静止円のみの呈示:統制条件), 0.5, 1, 2, 4, 8 Hzとした。その結果,交替周波数2Hzで最も潜時が短くなるU字型関数が得られた。 潜時の問題は,先行研究で報告された図形変形錯視とポリゴン化効果の最も大きな違いである。ポリゴン化効果の生起には長時間順応が不要で,ほぼ交替呈示開始直後から図形の変形が知覚された。この相違点から次の2点の可能性が示唆される。第1は,先行研究の図形変形錯視とポリゴン化効果は,全く別のメカニズムに依存する別個の現象という可能性である。第2は,ポリゴン化効果が先行研究同様に順応メカニズムに依存していて,フラッシュ呈示がその順応効果を促進しているという可能性である。
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