研究課題/領域番号 |
17K04498
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研究機関 | 東北学院大学 |
研究代表者 |
櫻井 研三 東北学院大学, 教養学部, 教授 (40183818)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 図形変形錯視 / 図形残効 / 順応 / 曲線検出 |
研究実績の概要 |
従来,円図形の変形錯視は長時間観察による順応で生起する一種の残効と考えられていた(Ito, 2012; Khuu, McGraw,& Badcock, 2002)。研究代表者は,この図形変形錯視と同様の知覚が,円図形とそのグラデーション図形を交替させるフラッシュ呈示により,短時間で生起することを発見して「ポリゴン化効果」と名付け,本研究でその生起機序の解明を目指している。 計画2年目の2018年度は,円図形変形知覚を誘導するグラデーション図形,すなわち円図形の輪郭と対になる灰色領域形状のバリエーションの検討と刺激呈示眼の操作による生起部位の検討を行なった。誘導グラデーションの形状を円図形の内側,外側,両側としたものに加えて,逆極性(明暗を反転させたもの)を用いて,ポリゴン化効果の有無を検討した。その結果,どの誘導グラデーション図形でも同様にポリゴン化効果が認められた。 また,円図形とグラデーション図形をそれぞれ左右の眼に分離して呈示し,ポリゴン化効果が生じる視覚情報処理の段階が両眼融合以前か以後かを大まかに特定することを試みた。その結果,両眼分離呈示の条件では生起潜時が長くなるものの,ポリゴン化効果は生じることが明らかになった。これらの結果から,この錯視の生起部位は両眼融合が成立する皮質レベル以降であることが示唆された。さらにこの結果は,第1次視覚野以降にその存在が想定されている,特定の大きさの曲線(弧)に反応するcurvature検出機構が関与していることも示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画では,この図形変形錯視(ポリゴン化効果)の生起機序の解明を目的とし,ポリゴン化効果が先行研究の長時間観察での順応にもとづく図形変形錯視と同じメカニズムに依存するか否かについて,以下の3点を中心に年次計画で研究を進めている。第1点は,静止円を凝視させた場合と,グラデーション図形との交替呈示を観察させた場合の,円図形変形錯視の生起潜時の比較(2017年度)である。第2点は,円図形変形知覚を誘導するグラデーション(円図形の輪郭と対になる灰色領域)のバリエーションの検討と刺激呈示眼の操作による生起部位の検討(2018年度)である。第3点は,Curvature 検出機構モデルおよび受容野モデルによる説明の可能性の検討(2019年度)である。計画2年目までに予定していた実験は無事終了したため,研究全体の進捗状況は「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画に沿って,計画3年目となる2019年度は,Curvature 検出機構モデルおよび受容野モデルによる説明の可能性の検討をおこない,それまでの実験結果をもとに,研究成果の論文化を目指す。第1のモデルとして,Curvature検出機構そのものが曲線的に並んだ小さな線検出器の集合である可能性が考えられる。第2のモデルとして,そのような機構の出力とより大きく長い線検出器の出力との関係でポリゴン化効果が生じているという説明も可能である。これらの可能性を実験結果から検証し,ポリゴン化効果を説明する適切なモデルの構築を試みる。 また,カナダのトロントで開催されるICPVに参加する機会を利用し,研究協力者であるHiroshi Ono教授とLaurence R. Harris教授との研究打ち合わせを行なう。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験補助とデータ整理の費用として想定していた「人件費・謝金」が予想より少なかったことが理由である。最終年度はアルバイトの人数を増やして,対応する計画である。
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