研究実績の概要 |
これまで円図形の変形錯視は長時間観察による順応で生起する一種の残効と考えられていた (Ito, 2012; Khuu, McGraw,& Badcock, 2002)。本研究では,この図形変形錯視と同様の知覚が,円図形とそのグラデーション図形を交替させるフラッシュ呈示により短時間で生起することを確認し,「ポリゴン化効果」と名付けて,その生起機序の解明を目指している。 計画を延長して4年目に入った2020年度はコロナ禍で実験施設の利用が困難となり,参加を予定していた国際学会も延期となり,実質的に研究活動ができない状態が続いている。そこで予定していた補足データの収集を一旦中断し,次の3点に研究活動の内容を変更した。第1に,これまでの実験結果を整理すると同時に先行研究の再調査を行なった。それによりCurvature検出機構の研究の中には,円と多角形の処理の連続性を示唆するものが含まれていることが判明した。第2に,2019年にカナダのトロントで開催されたICPVで発表した内容を発展させ,Ito (2012) が報告した多角形の残像が円図形に見えるというポリゴン化効果とは逆方向の変形錯視が,多角形のフラッシュ呈示でも生起するか否かの問題について,主に現象観察による知見の蓄積を行なった。第3に,論文化の作業に着手した。本研究には図形変形錯視(ポリゴン化効果)の生起機序の解明という側面と同時に,フラッシュ呈示が知覚的順応を促進させている可能性を検証する側面を持つ。これら2つの側面を同時に取り込めるような原稿を目指して執筆している。
|