研究実績の概要 |
これまで円図形の変形錯視は長時間観察による順応で生起する一種の残効と考えられていた (Ito, 2012; Khuu, McGraw,& Badcock, 2002)。本研究では,この図形変形錯視と同様の知覚が,円図形とそのグラデーション図形を交替させるフラッシュ呈示により短時間で生起することを確認し,「ポリゴン化効果」と名付けて,その生起機序の解明を目指している。 計画を延長して5年目に入った2021年度もコロナ禍で実験施設の利用が困難な状況が続き,参加を予定していた国際学会もオンライン開催となり,研究活動による海外出張はできない状態が続いている。そこで2021年度は,2020年度までに進めた活動をもとに,図形変形錯視と同時に生起することがある見かけの回転運動を説明する修正モデルを構築し,2022年1月の日本視覚学会冬季大会で発表した。見かけの回転運動は短時間で円図形がやや丸みを帯びた角を持つ多角形に変形した際に,緩やかに回転して知覚される現象である。特定の曲率で曲線的に並んだ小さな線検出器群からなる曲線検出器の出力の組み合わせで円が知覚されるなら,この図形変形錯視の直線部分が知覚されるのは曲線検出器が順応することでより直線に近い低曲率の曲線検出器の出力が相対的に強くなる結果であると説明できるが,丸みを帯びた角の部分の形成過程は説明できない。修正モデルでは,1)隣接する曲線検出器同士では逆方向の曲率の出力が順応後に相対的に強くなる,かつ2)それらの逆方向の出力はフラッシュ呈示でトリガーされ振動(交替)する,という2つの制約条件を付与した。これにより丸みを帯びた角の部分が形成されると同時に,多角形の位相(角の位置)はフラッシュごとに変化するため,仮現運動が生じて回転が知覚されると説明できる。
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