研究実績の概要 |
これまで円図形の変形錯視は長時間観察による順応で生起する一種の残効と考えられていた (Ito, 2012; Khuu, McGraw, & Badcock, 2002)。本研究では,この図形変形錯視と同様の知覚が,円図形とそのグラデーション図形を交替させるフラッシュ呈示により短時間で生起する現象を確認し,「ポリゴン化効果」と名付けて,その生起機序の解明を目指してきた。 研究では第1に,静止円を凝視させた場合と,グラデーション図形との交替呈示を観察させた場合を比較した結果,フラッシュ呈示による短時間生起が極めて頑健な現象であることを明らかにした(2017年度)。第2に,円図形変形知覚を誘導するグラデーション(円図形の輪郭と対になる灰色領域)の形状を変化させてもこの錯視は頑健に生起することと,両眼分離呈示でもこの錯視が生起することを明らかにした(2018年度)。第3に,この錯視の生起機序の説明として,複数のモデルを提案した(2019~2022年度)。これらのモデルは,この図形変形錯視の直線部分が知覚されるのは曲線検出器が順応することでより直線に近い低曲率の曲線検出器の出力が相対的に強くなる結果であると説明するが,丸みを帯びた角の部分の形成過程は説明できなかった。 最終年度となる2022年度は,この点を説明する修正モデルの精緻化を進め,1)隣接する曲線検出器同士では逆方向の曲率の出力が順応後に相対的に強くなる,かつ2)それらの逆方向の出力はフラッシュ呈示でトリガーされ振動(交替)する,という2つの制約条件を付与した。これにより丸みを帯びた角の部分が形成されると同時に,多角形の位相(角の位置)はフラッシュごとに変化するため,仮現運動が生じて回転が知覚されると説明でき,図形変形錯視と同時に生起することがある見かけの回転運動も同時に説明することが可能となった。
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