研究課題/領域番号 |
17K04499
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研究機関 | 国際医療福祉大学 |
研究代表者 |
阿部 晶子 国際医療福祉大学, 保健医療学部, 教授 (60250205)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 半側空間無視 / 無視性失読 / 視空間性注意 / プライミング / 視線解析 |
研究実績の概要 |
左半側空間無視患者は、病巣の反対側にある刺激を意識的に処理することができない。横書きの文の読みにおいて左側の読み落としや読み誤りを示す。本研究の目的は、左半側空間無視患者における読字障害の発現に関わる要因を明らかにすること、読字の際の視線の方向・停止位置と誤り方の関係を明らかにすることである。平成29年度の計画は、①無視性失読の特徴を明らかにするための実験プログラム(音読課題)の作成、②眼球運動測定システムの開発であった。 1)実験プログラム(音読課題)の作成 左半側空間無視患者は横書きの文章の改行時に、次の行頭(左端)の文字を探索することができずに、省略することが多い。一方で、患者は、行末の文字(例:学)を手掛かりに、次の行頭の文字(例:校)に視線を向けずに、補完的な反応をする(例:学→学校)ことも少なくない。このようは補完的な反応は、無視性失読の分析を難しくする。そこで、H29年度は音読課題を試作し、大学生28名(男性2、女性26)(平均21.0±1.0歳)を対象に予備調査を行った。その結果、補完的な反応でも平均31.4±29.1%と非常に高い正反応が得られることが明らかになった。H30年度は、これらをふまえ音読課題を修正して実験を進める計画である。 2)眼球運動測定システムの整備 H29年度は眼球運動測定システムの整備を行った。文字刺激をプライム刺激とした単語完成課題を行っている際の視線解析を行うプログラムを作成し、健常若年者と高齢者を対象とした検討を行った。健常若年者を対象とした実験からは、プライム刺激に視線が向けられていれば、それを同定・報告が困難な場合でもターゲット刺激に対する反応が促進されることが明らかになった。その成果は日本心理学会第82回大会(2018年9月)で発表予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、左半側空間無視患者が文章を読み誤るメカニズムを、眼球運動測定システムを用いて解明することを目指すものである。平成29年度の計画は、①無視性失読の特徴を明らかにするための実験プログラム(音読課題)の作成、②眼球運動測定システムの開発であった。 1)実験プログラム(音読課題)の作成 音読課題を試作し、大学生28名を対象に予備調査を行うことができた。しかし、補完的な反応が可能な条件下での正反応率が平均31.4±29.1%と、予想以上の高い値であった。行頭の文字に対する注意の有無が音読の正誤に及ぼす影響を検討するためには、補完的な反応の影響をより小さく抑えなくてはならず、課題の修正が必要となった。当初の計画ではH29年度中に課題を完成させる予定であったが、2~3ヶ月の遅れが生じている。 2)眼球運動測定システムの整備 H29年度はアイトラッカーを使用した実験を行える環境の整備とプログラムの開発を目標とした。当初の予定に追加して、文字刺激をプライム刺激とした単語完成課題時の視線解析を行うプログラムを作成した。健常若年者を対象としたプライミング実験からは、プライム刺激に視線が向けられていれば、それを同定・報告が困難な場合でもターゲット刺激に対する反応が促進されることが明らかになった。その成果は日本心理学会第82回大会(2018年9月)で発表予定である。以上より、眼球運動測定システムの整備については、一定の成果を挙げることができたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
脳損傷の既往がない健常者を対象に3種類の実験を実施し、データ収集・分析を行う。 研究1:行頭の語が必須か/付加的かによる音読時の眼球運動の差を明らかにする。パソコンのモニターに横書き文章を提示し、音読を求める。アイトラッカー(Tobii X3-120)を用いて、文章を音読している間の視線の位置を測定する。独立変数は、行頭の語が必須か/付加的かである。従属変数は、行頭の文字の省略数(行数)および視線の左方への移動距離である。行頭の語が必須の場合と付加的な場合の省略数、視線の移動距離を比較する。 研究2:視線の停止位置による、読み誤りの種類(省略/置換)の差を検討する。研究1と同様の装置を用いて、被験者が文章を音読している間の視線の位置を測定する。用いる文章は、各行の行頭の語は、2語を組み合わせた複合語(例:かしわ・もち)とする。各行を読む際に視線が最初に停止した位置を測定し、語と語の区切りであるか、区切りでない場合の2群に分ける。語と語の区切りである場合には省略が生じやすいのか、またどのような複合語の場合に省略が生じやすいのかを分析する。 研究3:文字刺激に対する視線移動の速さとプライミング効果との関係を明らかにする。H29年度のプライミング実験を、刺激をより厳密に統制して実施する。分析は、文字刺激が左空間/左空間に提示された場合の視線移動の速さの差に焦点を当てる。さらに、視線移動が速い場合と遅い場合のプライミング効果の差を比較する。 研究1、2について、予想される結果が得られない場合は、仮説および課題の見直しを行う。研究3については、H29年度の成果をもとに研究を発展させるものであり、計画通り進めることができると考える。健常者を対象に得られた研究の成果は日本心理学会にて発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
H29年度は、当初の計画通り、助成金全額を物品費(眼球運動測定用アイトラッカー/ソフトウェア)と使用した。次年度使用額は、被験者謝金およびデータ収集・分析のための人件費として使用する計画である。
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