研究課題/領域番号 |
17K04499
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研究機関 | 国際医療福祉大学 |
研究代表者 |
阿部 晶子 国際医療福祉大学, 保健医療学部, 教授 (60250205)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 左半側空間無視 / 無視性失読 / 視空間性注意 / プライミング / 視線解析 |
研究実績の概要 |
【研究目的】本研究の目的は、左半側空間無視患者における読字障害の発現に関わる要因を明らかにすること、読字の際の視線の方向・停止位置と誤り方の関係を明らかにすることである。 【研究計画】研究期間内に以下の研究1~3を実施する計画である。2018年度は健常者を対象とした実験を実施し、課題を完成させる計画とした。 研究1:横書き文章を音読する際に、無視側にある行頭が語頭か/語中かによる眼球運動の差を明らかにする。研究2:行頭の語および視線の停止位置が読み誤りの種類(省略/置換)に関わるか否かを検討する。研究3:文字刺激に対する視線移動の速さ・正確さとプライミング効果との関係を明らかにする。 【実施内容】 研究1:健常者20名を対象に文章の音読課題を実施し、アイトラッカー(Tobii X3-120)を用いて視線の位置を計測した。行頭が語頭か/語中かによって、改行時の視線の停止位置(左方への移動距離)に有意な差がみられた。以上は、文章の行頭の統制が、視線移動の差をもたらすことを示唆する。2019年度は本課題を左半側空間無視患者に実施する。研究2:語彙の調査および音読課題の作成を行った。当初の計画よりも課題の作成に時間を要したため、実験の実施時期を2019年度に変更した。研究3:健常者21名を対象に、左右空間のプライム刺激が後続の単語完成の成績に与える影響を検討した。プライム刺激を左空間に提示した条件では、右空間に提示した条件に比べ、視線の停止位置が右側に大きくずれていた。両条件の差は視空間性注意の左右差を反映していた可能性が考えられた。一方、2つの条件におけるプライム刺激に対する視線移動の速さ、プライミング効果に有意な差はなかった。2019年度は本課題を左半側空間無視患者に実施する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、左半側空間無視患者が文章を読み誤るメカニズムを、アイトラッカー(Tobii X3-120)を用いた3種類の実験(研究1~3)を通して明らかにする計画である。2018年度は、健常者を対象にデータ収集・分析を行い以下の成果を得た。 研究1:健常者20名を対象とした実験を行い、行頭が語頭か/語中かによって、改行時の視線の停止位置(左方への移動距離)に有意な差が生じることを明らかにした。2018年度の目標は概ね達成することができたと考える。2019年度に、左半側空間無視患者を対象とした検討を行うことができる。 研究2:語彙の調査および音読課題の作成を行った。当初の計画では2018年度中に課題を完成させ、健常者を対象とした実験を開始する予定であったが、語彙の調査に時間を要したため2~3ヶ月の遅れが生じている。2019年度に、健常者と患者を対象とした検討を並行して行うことで遅れを取り戻す計画である。対応策として、大学と研究協力病院の両方に実験環境を整え、効率的にデータ収集を行えるようにする。 研究3:健常者21名を対象とした実験を行い、左右空間のプライム刺激が後続の単語完成課題の成績に与える影響を比較した。その結果、プライム刺激を左空間に提示した条件では、右空間に提示した条件よりも、視線の停止位置が右側に大きくずれることが明らかになった。この知見は、日本心理学会に発表予定であり、一定の成果を挙げることができたと考える。2019年度は、左半側空間無視患者を対象とした検討を行う。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる2019年度は、左半側空間無視患者を対象とした検討を行う予定である。また、脳損傷の既往がない健常者を対象とした実験も並行して行う。 研究1:左半側空間無視患者を対象に文章の音読課題を実施し、アイトラッカー(Tobii X3-120)を用いて視線の位置を計測する。独立変数は、行頭が語頭か/語中かである。従属変数は、行頭の文字の省略数および改行時の視線の左方への移動距離である。仮説は、行頭が語中の条件では語頭の条件に比べて、①行頭の文字の省略数が少ない、②改行時により視線が左方へ移動するである。2019年度は、患者を対象とした実験によって仮説の検証を行う。 研究2:研究1と同様の装置を用いて、文章音読時の視線の停止位置による、読み誤りの種類(省略/置換)の差を検討する。文章の行頭の語に、2語を組み合わせた複合語を用い、2語の組み合わせを統制する(付加的な語か否か、親密度が高い語か否か)。2019年度は、健常者と左半側空間患者を対象とした実験を並行して行い、どのような複合語の場合に省略が生じやすく、またどのような複合語の場合に置換が生じやすいのかを明らかにする。 研究3:左半側空間無視患者を対象に、プライム刺激が後続の単語完成課題の成績を促進する条件を明らかにする。仮説は以下の通りである。①プライム刺激の提示位置周辺に視線が向けられた場合に、刺激の存在を報告することができる。②プライム刺激の提示位置周辺に視線が向けられた場合に、それを言語化できるか否かに関わらず単語完成課題の成績が促進される。2019年度は、患者を対象とした実験によって仮説の検証を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度当初の計画では、研究2は、実験課題を完成させ、健常者を対象とした実験を開始する予定であった。しかし、課題に用いる語彙の調査に時間を要したため、データ収集・分析まで至らなかった。このため、データ分析に係る人件費は2019年度に使用することとした。 実験開始の遅れの対応策としては、大学と研究協力病院の両方に実験環境を整え、患者と健常者のデータを並行して収集するすることとした。このため、2018年度に実験システム(デスクトップPC一式、PCディスプレイ、行動記録用カメラ)を新たに購入した。
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