研究課題/領域番号 |
17K04500
|
研究機関 | 文教大学 |
研究代表者 |
増田 知尋 文教大学, 人間科学部, 准教授 (60449311)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 運動知覚 / 質感知覚 / 映像表現 / 事象知覚 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、映像作品で用いられている多種多様な素材感を生じさせる表現技法について、それらの要因を精査した上で心理学実験による検証を行うことで新たな質感知覚の現象の発見及びより発展した視覚による動的な質感知覚の基本原理を見いだすことである。 平成30年度は、平成29年度に作成した映像表現データベースに基づいて、動的な粘性に関する心理物理実験を行った。まず、映像作品において、被写体と流体が接触しているシーンを選定し、設定上の被写体の大きさと映像の再生速度の異なる8種類の映像を用いて、一対比較法により映像内の流体の粘性と被写体の見た目の大きさについて測定を行った。結果として、被写体の作品中の設定身長と同様に大きさの判断がなされたことと、再生速度が遅い映像でより大きいと判断されたことが示された。加えて、被写体の大きさ判断と流体の粘性の判断には負の弱い相関が見られ、被写体が大きいほど粘性が低いと判断される傾向にあることが示された。 これらのことから、映像作品における被写体の大きさ表現は作品中の設定に応じて表現者の意図通りに適切になされていることと、再生速度の違いは、粘性判断か大きさ判断かいずれかにのみ影響を及ぼし、同時に両方の判断には影響を及ぼさないことが示唆された。物理的には流体は表面積が大きいと、表面積の小さい同様の粘性の流体と比べ、ずり応力が高くなり粘性が高い流体と似た振る舞いをすることから、再生速度を遅くし粘性を高く見せることで、表面積の大きい流体に見え、結果的に関連する被写体が大きいと判断されると考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度の研究計画は、作成したデータベースに基づいて映像作品中の素材感と関連する表現技法について、それぞれの素材感の強度との関連を明確にするための心理物理実験を行うことであった。 素材感と関連する表現技法について、データベースに基づいて実際の作品中の映像を用いた心理物理実験を行うことができ、加えて、新たな要因として見出された表現の上で粘性と関連していると考えられる巨大感や時間感覚などについても実験的検討ができたことから、当該年度の研究計画は概ね順調だったと言える。 また、アニメーションにおける素材感についてアニメーション制作に関わっている専門家に聞き取り調査を行うなどして検討中ではあるものの、最終的なデータベースへの追加には至っていないこともあり、今後も継続してデータベースを更新していくことが必要であると考えられる。加えて、高精細映像やハイダイナミックレンジ映像などの新たな映像規格による素材感の規定要因なども今後検討する予定である。 以上、作成した映像表現のデータベースを用いた心理物理実験により素材感の規定要因に関する実験的検討を行えたことをはじめ、現状における本研究の達成状況はほぼ計画通りであると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度は、当初の計画通り、素材感判断への各種表現技法による影響を検証するための心理物理的実験を引き続き行う。各種映像作品から素材感と関連すると考えられる運動パラメータを人工的に操作したパターンを作成し、どのような運動情報が視覚的運動情報による素材判断を規定するのか、検討する予定である。 加えて、これらの実験結果から明確となった運動情報と各種素材感判断との対応から、動的質感に関する知覚的特徴の法則化と、これらの成果を実際の映像作成現場で活かすことのできるよう、明文化を試みる予定である。また、データベースの更新と専門家への表現技法と素材感に関する聞き取り調査を継続して行っていく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2018年度に当初予定していた学会での情報収集及び成果発表の一部を行わなかったため、2019年度使用額が生じた。当該予算を用いて、2019年度に表現技法のデータベース拡充の為の映像ソフトを購入する予定である。
|