本研究の目的は、映像作品で用いられている多種多様な素材感を生じさせる表現技法について、それらの要因を精査した上で心理学実験による検証を行うことで新たな質感知覚の現象の発見及びより発展した視覚による動的な質感知覚の基本原理を見いだすことである。 2019年度は、前年度までに作成したデータベースに基づいて映像作品に関して、各種映像作品から素材感と関連すると考えられる運動パラメータを人工的に操作したパターンを作成し、どのような運動情報が視覚的運動情報による素材判断を規定するのかを検討した。実験では、流体シミュレーションを行ったコンピュータグラフィックスにより、液体の中を球状の対象が移動する映像を作成し、映像の再生速度、流体の粘性、運動対象の大きさを操作し、一対比較法により映像内の流体の粘性と被写体の見た目の大きさについてそれぞれ測定を行った。結果として、再生速度が遅いときには液体の粘度が高いと判断されること、また液体の粘性を高く設定したパターンでは、粘度が高いと判断されないときに対象がより大きい判断されることが示された。 これらのことから、映像内の対象の速度や再生速度の違いは、粘性判断か大きさ判断かのどちらかに影響を及ぼし、同時に両方の判断には影響を及ぼさないことが示され、知覚における対象の大きさと観察者からの距離の関連のように、対象の大きさと関連する粘性判断の間には相互関係があることが示唆された。
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