研究課題/領域番号 |
17K04502
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
田谷 修一郎 慶應義塾大学, 法学部(日吉), 講師 (80401933)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 奥行き知覚 / 事前知識 / 錯視 / 個人差 / 空間知覚 / 両眼視差(両眼網膜像差) / 奥行き手がかり / 立体視 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,観察者の事前知識と感覚データの間のギャップが視知覚における立体感およびそれを含む臨場感や現実感に及ぼす影響について明らかにすることである。本年度は観察者の事前知識が奥行きの見えに及ぼす影響についての検討結果を報告した。実験参加者の課題は,平面の奥行き方向への傾きを判断することであった。実験では両眼網膜像差と線遠近法のふたつの奥行き手がかりが矛盾する傾きを示すステレオグラムが呈示された。このような平面の傾きを判断する際,2種の手がかりそれぞれに適当な重み付けがなされることが知られる。本研究では,傾き判断課題の直前に遠近法情報が傾きの手がかりとして不適切であることを繰り返し示されたとき,観察者は両眼網膜像差により大きな重みを与えて傾きを判断するようになることが示された。この結果は我々の2次元網膜像に基づく3次元空間の解釈が直近の経験(学習)に基づいて更新され得ることを示す。さらに,水平軸廻りの傾きと垂直軸廻りの傾きの間では事前情報の更新内容が一部しか転移しないことがわかり,事前知識は文脈別に形成・更新されることが示唆された。加えて本年度は事前知識が視知覚に及ぼす影響を幾何学的錯視を題材に考察した。我々の視覚系は空間についての知識を利用して知覚世界の安定をもたらす機能を持つ(恒常性)。恒常性の働きが幾何学的錯視の背後にあるという仮説は良く知れるが異論も多い。本研究では知覚距離に基づく見かけ上の大きさの違い(回廊錯視の錯視量)を恒常性の働き(大きさ-距離スケーリング)の個人差を測るベンチマークとして用い,これと幾何学的錯視の錯視量の相関の強さから,個々の錯視における恒常性の寄与の大きさの推定を試みた。実験の結果,よく知られる仮説に反し,恒常性の働きが幾何学的錯視の成立に及ぼす影響は限定的であることを示唆するデータが得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験の内容は当初の計画と多少変更があるものの,事前知識や期待と感覚データの間のギャップが視知覚における立体感およびそれを含む臨場感や現実感に及ぼす影響について明らかにするという本研究の目的に沿って実験を遂行し,学会発表と論文発表を行えているため。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は教務負担の増加に加え学外委員等の業務も増え,実験を準備・実施する時間の確保が前年度よりも厳しいことが予測される。このため,必要に応じて実験用のコンピュータプログラムの作成を外注したり,実験補助者を雇用するなどして進捗が滞らないように工夫することを検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は実験刺激の選定,画像の加工および予備実験などのため事前の予測よりも実験開始に時間がかかり,この結果予算の消化が予定通り進まず大幅な繰越が生じた。今年度もこの繰越分をまだ消化していないため次年度への繰越が生じている。初年度の進捗の遅れを取り戻すためにも,繰越分を本研究の推進をサポートする人件費(実験プログラムの外注や実験補助員等)にあて,研究の円滑な遂行を目指したい。
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