研究課題/領域番号 |
17K04502
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
田谷 修一郎 慶應義塾大学, 法学部(日吉), 講師 (80401933)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 奥行き手がかり / 空間知覚 / 両眼立体視 / 手がかり統合 / 単眼性(絵画的)手がかり / 両眼性手がかり / 視知覚 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,過去の経験とそれに基づいた網膜像の解釈が,視覚体験の質に及ぼす影響について明らかにすることである。例えば我々はステレオグラムやある種の騙し絵に,そのようなシンプルな視覚刺激よりも遥かにリッチな奥行き情報を含んでいるはずの現実世界にはない強い立体感を覚えることがある。本研究が検討する中心的な仮説は,ステレオグラムや錯視を見る際に生じるあの独特な体験の質が,典型的な観察条件下における網膜像の解釈が覆される際に生じる一種の「驚き」に起因する,というものである。
本年度は「事前知識と感覚データの間のギャップが観察者の視覚体験の質に及ぼす影響」という本研究における大枠の興味に則して,いくつかのオンライン観察調査を行った。ひとつは,知覚の恒常性に由来すると考えられる一群の錯視(目の錯覚)と,アナモルフォーズと呼ばれる通常錯視とは別ものとされる視覚現象が,同一のメカニズムで説明可能であるという,前年度に得た着想に基づくものであり,この結果から,垂直水平錯視およびシェパード錯視とよばれる錯視現象が,いずれも典型的な観察条件で生じる網膜像からの逸脱によって説明できること(すなわち,これらの錯視が一種のアナモルフォーズと見做せること)が示唆された。また,同一の視覚刺激に対する解釈が個人によって大きく分かれる現象(例:“the dress” と呼ばれる,人によって青黒・白金に色の解釈が分かれる画像)について,網膜像を解釈する際に用いる事前知識の偏りがその原因であるという仮説に基づき,特定の刺激に対する視覚的順応によってその見え方をある程度制御できることを明らかにした。
また,本年度はアウトリーチ活動の一環として,東京大学駒場祭準備委員会の招待を受け,上記の錯視現象を含む視知覚のメカニズムに関する一般向けのオンライン講演を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
前年度に引き続き,コロナ禍等の影響により研究外の業務負担が大幅に増加したこと,および当初計画していた実験室に参加者を招いて行う対面実験が遂行できなかったことが理由として挙げられる。加えて,事前に予定していた実験をオンラインで行うことを模索していたが,元の計画通りに実験を遂行するために必要な環境構築が困難であり,予備的な実験や派生的な実験を行うにとどまったため,遅れているという評価が妥当であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は大学キャンパスでの対面授業が再開されたため,当初の計画に沿って実験室にて対面実験を行うことが可能となると思われる。実験プログラムや実験装置などの準備はおおむね済んでいるので,今年度は前半のうちに予定していた実験を遂行し、後半は論文にはそれまでに得られたデータで論文を執筆し,研究計画を完了させたい。また、データ収集効率化のため、置き換え可能な場合は,オンライン実験も併用する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響により当初予定していた対面実験が遂行できなかった。このために,計画していた実験補助者および実験参加者への謝金の使用機会がなく,また実験再開の目処が立たない中,実験機材の購入を見送った。加えて,発表を計画していた国内外の学会が全て中止またはオンライン開催となり,旅費を使用しなかったことが主な理由である。進捗の遅れを取り戻すためにも,繰越分を本研究の推進をサポートする人件費(実験プログラムの外注や実験補助員の雇用等)やオンラインでデータを取得するためのクラウドソーシングサービスへの支払いに充て,研究の円滑な遂行を目指したい。加えて,本研究の提案するモデルを視覚的に表現するための映像制作も計画しており,この動画作成に対する映像作家・エンジニアへの謝礼も支払い計画に含めている。さらに,論文投稿のための英文校正費,およびオープンアクセスのための追加料金も含めた掲載料の支払いに用いる予定である。
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