予期的対比(AC)は、後により価値の高い報酬が与えられるとき、それ以前の報酬へのアプローチが減少することを言う。しかし、ラットのACは完了行動でのみ確認され、道具的行動においては見られないとされてきた。本研究はラットの道具的行動においてACが見られる条件を見いだし、脳内メカニズムを探ることを目的としている。 本研究の2年目までにに、ラットの道具的学習においてもACが見られることを確認することができた。この実験では、ラットに一日2回(1stコンポーネント(comp)、2nd comp 各3分)の連続したノーズポーキング(NP)を学習させ、1st compでFR3-Reward1(3回のNPに対して報酬1)、2nd compでFR1-Reward3(1回のNPに対して報酬3)、comp間間隔(ICI)30秒のときACの発現を確認した。また、ICIを5~180秒で変化させてもAC出現には変化がないことも確認した。 そこで令和元年度後半から3年度にかけてAC発現の脳内メカニズムの検討に入った。網羅的に関連部位をスクリーニングするため、関連が予想される脳部位においてc-Fosの発現を調査することとした。1st comp:FR3-Reward1、2nd comp: FR1-Reward3 ICI30秒で10日間NP学習を行いAC発現を確認した後、11日目の学習終了後90分で被験体の脳を取り出し、c-Fosの測定を行った。扁桃体、海馬、島皮質において実験群のc-Fos発現を、1st、2nd 両compともFR3-Reward1であった統制群と比較したものの、有意な差は認められなかった。その後、実験終了から脳の取り出しまでの時間をより厳しく統制した実験を行った。しかし、今回いずれの脳部位でもc-Fos発現を確認できなかった。実験手続き上の不具合と考えられるため、実験手順の再考が必要である。
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