研究課題/領域番号 |
17K04509
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研究機関 | 京都橘大学 |
研究代表者 |
坂本 敏郎 京都橘大学, 健康科学部, 教授 (40321765)
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研究分担者 |
崎田 正博 京都橘大学, 健康科学部, 教授 (10582190)
上北 朋子 京都橘大学, 健康科学部, 准教授 (90435628)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | マウス / 思春期 / 隔離ストレス / オキシトシン / 社会的認知 |
研究実績の概要 |
1年目(一昨年度)には、思春期での隔離ストレスがマウスの社会行動、情動性に与える影響を検討するために2つの実験を実施した。その結果、離乳後の21日齢から6週間個別飼育し、隔離ストレスを受けたマウスは他個体マウスへの探索行動に障害を示すこと、つまり社会的動機づけに障害を示すことが明らかとなった。この結果を踏まえて、2年目(昨年度)では、思春期に隔離ストレスを受けたマウスに神経ペプチドの一種であるオキシトシンを投与し、障害を受けた社会性が回復するかを検討する実験を行った。 離乳後すぐの21日齢のマウスを6週間個別飼育し、9週齢から行動テストを開始した。オキシトシンを腹腔内投与する群9匹と生理食塩水を投与する統制群9匹に群分けし、社会的探索テストとオープンフィールドテストを実施した。その結果、オキシトシンを投与したマウスは統制群に比べて社会的探索行動が減少し、活動性も減少した。この結果より、隔離飼育を受けたマウスにオキシトシンを投与しても社会性が回復するのではなく、むしろ社会性に悪影響を及ぼすことが示唆された。 さらに昨年度は、正常な思春期マウスにオキシトシンを腹腔内投与し、社会情動性に与える影響を検討した。4週齢のマウスにオキシトシンを投与し(高濃度群(1mg/kg)10匹、低濃度群(0.1mg/kg)10匹、統制群10匹)、社会的迷路課題、社会的選好課題、明暗箱往来課題、高架式ゼロ迷路課題を実施した。その結果、オキシトシンの腹腔内投与は、他個体への社会的探索行動を減少させること、不安関連行動が高まること、活動性が減少することが示された。この結果は、隔離ストレスを受けたマウスの結果とも一致しており、オキシトシンの腹腔内への投与は社会情動性に悪影響を及ぼすことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の進捗は概ね順調に進んでいる。一昨年度の結果を踏まえて、昨年度は離乳後から6週間隔離ストレスを与えたマウスにオキシトシンを腹腔内投与し、障害を受けた社会性が回復するかを検討した。実験前は、社会性を高める効果があるオキシトシンを投与すると障害を受けた社会性が回復する、という仮説を立てていた。しかしながら、得られた結果では、オキシトシンを投与すると生理食塩水を投与した場合と比較して、マウスの社会的探索行動は減少し、活動性も減少した。つまり、オキシトシンの投与が社会情動性に悪影響を及ぼす可能性が示された。そのため当初の計画を変更し、隔離ストレスを受けていない正常な思春期マウスにおいて、オキシトシンを腹腔内投与し、社会情動性に与える影響を検討した。その結果、オキシトシンを高濃度(1mg/kg)で投与したマウスは、他個体への社会的探索行動を減少させること、不安関連行動が高まること、活動性が減少することが示された。この結果は思春期に隔離飼育を受けたマウスの結果と一致している。さらに、オキシトシンを腹腔内ではなく脳室内に投与し、思春期マウスの社会情動性に与える影響を検討した。この結果は現在解析中である。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究より、離乳後から6週間の隔離ストレスを与えたマウスへオキシトシンを腹腔内投与しても、障害を受けた社会情動性が改善されるどころか、むしろ悪影響を及ぼす可能性が示唆された。さらに、正常な思春期マウスを用いて腹腔内投与と脳室内投与を行い、社会情動性に与える影響を検討した。今年度はこれらの実験結果を分析し、学会および学術雑誌へ投稿する予定である。 これまでの一連の結果を踏まえて、今年度は障害を受けた社会情動性を改善する効果を持つ薬物として、セロトニン作動性の薬物であるフルオキセンチンを用いて、昨年度と同様の実験を行う予定である。21日齢から個別飼育を受けたマウスにフルオキセンチンを慢性投与し、障害をを受けた社会情動性が回復するかを検討する。具体的な実験計画としては、集団飼育群を9匹、21日齢から6週間隔離飼育を受け行動テストまで4週間フルオキセチンを経口摂取する群を9匹、同様の処置をして水道水を経口摂取する群を9匹設定し、9週齢より社会的認知テスト、オープンフィールドテスト、明暗箱往来テスト、高架式ゼロ迷路を実施する。 当初の計画では、隔離ストレスによる社会性の障害を改善する方法として、薬物の投与だけではなく、豊富な環境刺激の中で飼育することも想定していた。豊富な環境刺激として運動を促進する輪回し行動を考えている。輪回し行動を自動測定できる装置を購入し、適度な運動と休息が隔離ストレスによって悪影響を受けた社会性を改善する可能性を検討する。
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